「資本主義の士官学校」――。ハーバードビジネススクール(HBS)は、そう呼ばれることがある。
……と聞くと、「合理的」で「株主至上主義」的な価値感を持つ、ドライなエリートを量産する教育機関、という印象を抱くかもしれない。実際、私も留学前は、人情が入り込むすきもない世界であるに違いないと思っていた。
しかし、実際に入学してみると、HBSの現実は、想像とはまったく異なるものだった。今回は、HBSが育てようとしているリーダー像を、自己体験を基にお伝えしたい。
あなたならどうする?
HBSの授業はすべてケースメソッドで進められる。経営者が対面した状況が記された20~30ページのケースを事前に読み込んだうえで、授業中は90人のクラスメートと80分間ディスカッションする。
教授から投げかけられる質問は、本質的にはただひとつ。「あなたならどうする?」だけだ。
学生は、経営者になったつもりで、限られた情報を基に状況を分析し、決断したことを発言する。期末試験も、ケースを渡され、「現状を分析して、アクションプランを書きなさい」というものだ。
たとえば、「100%ナチュラル」を宣伝文句にする子供向けのリンゴジュース製造工場のケース。あるとき、この製造工場に納入されている濃縮リンゴジュースが、砂糖水で希薄化されているといううわさが出た。
仕入先に問い合わせると、疑惑を激しく否定している。自社で簡易成分分析を行うが、問題なしとの確証は得られなかった。詳細な成分分析には数カ月かかってしまう。砂糖水で希薄化されていた場合の健康被害は確認できておらず、FDA(食品医薬品局)から明確な指示も出ていない。さて、あなたが経営者なら、このうわさだけでリンゴジュースの出荷を止めるだろうか?
私のクラスでは、まずアリソンが手を挙げた。
「100%ナチュラルを約束している会社が、それを証明できないならば、出荷を今すぐ止めるべきだ」
すかさずデイビットが言い返す。
「私はアリソンの意見に反対だ。財務諸表を分析したところ、リンゴジュースの出荷を止めると、○○万ドルの損失となる。風評被害も考えると、出荷停止は倒産につながる可能性が高く、ただのうわさだけで出荷停止するのは、株主や従業員に対して無責任すぎる」
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