「人喰い」に魅せられた男の七転び八起き人生 神保町の「異色」古書店はこうして生まれた

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しかし、仕事はまったく来なかった。

「このときが、僕の人生でいちばんつらかった時期です。誰からも声がかからず、『自分は社会からまったく必要とされていないんだ』と思い知らされました」

年齢も50歳を迎えていた。駆け出しの頃ならともかく、ベテランの年齢で仕事がないのはとてもつらかった。つねに楽天家で、仕事を辞めたり新しい事業を始めるときにも、全然悩まないというとみさわさんだが、さすがに落ち込んだ。

そんなとき、自分が自分であり続ける、アイデンティティになったのが、会社で働いているときに細々と続けていたブログ『人喰い映画祭』だった。会社への通勤の際、『人喰いシーン』のある映画を1日1本見て、レビューブログを作っていたのだ。

「映画ライターは腕の良い人、莫大な知識を持つ人がたくさんいて新規参入するのは難しいのですが、『人喰い』という切り口をつければ勝てるのでは?と考えて始めたブログでした。いつか、本としてまとめたいと思って続けていました」

実際、同人誌としてまとめたところ、評判が良く、2010年、辰巳出版から『人喰い映画祭 【満腹版】』として発売されて、好評を得た。

相変わらず仕事はなかなか来なかったが、ジャンプ時代からの知り合いである、ゲームライター、作家の、さくまあきらさんが手を差し伸べてくれて、徐々に暮らし向きも上向いていった。

そんな折、東日本大震災が起きた。地震の影響で、多くの仕事が立ち消えになってしまった。 せっかくうまく行きかけていたのに、また厳しい状況に戻ってしまった。

ふっと心に浮かんだ「古本屋になる」という夢

そしてもともと難病を抱えていた妻が、急激に体調を崩した。そして、その年の10月に、亡くなってしまった。とみさわさんは、まだ幼い娘と2人だけ、ぽつんと世界に遺されてしまった。

さまざまなタグが並ぶ(写真:筆者撮影)

仕事はうまく行っていない。そしてうまく行かなかったとき、いつも心の支えになってくれた妻も、もういなくなってしまった。しばらくは絶望感に満ち満ちた日々を過ごした。もう立ち直れない気さえした。

「そんなとき、ふっと心に浮かんだのが、はるか昔に思い描いた、『古本屋になる』という夢だったんです」

どうせライターの仕事も、ゲームデザイナーの仕事も来ないんだ、だったら“老後の夢”だった古本屋になろうと思った。

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