「人喰い」に魅せられた男の七転び八起き人生 神保町の「異色」古書店はこうして生まれた

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ただ古本屋になるといっても、先立つ物はいる。そのときまでまったく忘れていたのだが、結婚した直後に入っていた妻の生命保険が支払われた。開店資金のメドは立った。妻が、古本屋になるのを後押ししてくれたと感じた。

すぐに古物商の許可を申請し、神保町に良い物件を見つけて、夢の古本屋を始めた。店名は、当時のアイデンティティだった『人喰い』からマニタ書房と名付けた(『人喰い=マンイーター』をネイティブ風に『マニタ』と読んだ)。

徹底的に自分の趣味の本を並べる

店内は、徹底的に自分の趣味の本を並べることにした。本を客から買い取るのはやめた。まずは自分の蔵書約1000冊を並べたが、全然足りなかった。足りないぶんは、自らブックオフに出向き、100円コーナーなどから集めることにした。

「全国のブックオフをすべて回ろうって決めたら、自分の中で決めて盛り上がったんですよね。以来、日本全国のブックオフに通っています。いつか全店制覇したいですね。おそらく、僕が日本でいちばんたくさんのブックオフに行った人間です」

本が集まったら、自分なりにジャンル分けして並べた。「毛」「やくざ」「人喰い」「ホームレス」「秘境と裸族」「日本兵」……など珍しいジャンルを作った。

毛のコーナー(写真:筆者撮影)

「たとえば『毛』のコーナーには、カツラの本や植毛の本などはもちろん、ヘアヌードの仕掛け人の本、毛バリの本、などが置いてあります。無数の本を、どういう切り取り方でジャンル分けして並べるのか、ライターであり編集者である僕の腕の見せどころですね」

店内に事務所のスペースも作ることにした。作業机を置き、店内でライターの仕事をした。

「正直、マニタ書房は最初の頃、全然儲からなかったんですよ。今も低空飛行です。でも、古本屋を始めた後に、徐々にライターの仕事が来るようになったんですよね」

珍本だけを集めたという古書店に興味を持った雑誌社が取材に来たし、古本をテーマにしたコラムの執筆依頼も来た。

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