マクロン大統領が抱える「深刻な3つの問題」 フランス大統領選挙の世界史的な意義

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けれども、第1に、6月の国民議会(全577議席)を円滑に乗り切れるのかどうか、試練が迫っている。第5共和制のフランス大統領は強大な権限を持つものの、もし大統領と政治的志向の異なる勢力が多数を占めれば、首班指名から予算通過まで手足を縛られ、自らの政治的影響力に多大な制約となる。

マクロンが1年前に作った運動体「前進!」は、当然のことながら、現在議席を持たない。来るべき議会選では、全選挙区に候補を立て、そのうち半数を民間から選ぶ意向で、この運動体が過半数を獲得するのは容易なことではない。

ただし、フランス国民には、新大統領に議会の過半を与える癖のようなものがある。決選投票直前のシミュレーションによると、マクロンの「前進!」は、多数派形成も夢でなく、都市を中心に社会党の票を飲み込んで、240~290議席を得る可能性もあるという。

すでに、2012年に社会党大統領のオランドに投票した人のうち、2017年の第1回投票では、約半数が社会党候補アモンでなく、マクロンに票を投じている。その社会党は、絶滅の危機に瀕しており、現有300弱の議席から大幅に減らし、大都市を中心に28~43議席になる可能性が指摘されている。右派の共和派は、左派の退潮に加え、地方ではFNの票を取り込み、200~210議席に達する可能性がある。そのFNは多数派に有利(FNに不利)な2回投票選挙制度ゆえに15~25議席にとどまるとの予測である(フィガロ紙5月7日)。

もちろん、これはどうなるか、まだわからない。シナリオとしては、大まかに3つ考えられよう。

1つは、「前進!」が単独過半数。マクロンにとって最善シナリオだが、急造候補者の「質の問題」が後日頭をもたげる可能性がある。

2つ目は、「前進!」がかなりの議席を取るものの過半に至らず、他党との協力・交渉を余儀なくされるシナリオ。かつてマクロンが所属した社会党と組むのはやりやすいが、既存政治と代わり映えがしないというリスクを負うし、そもそもその組み合わせで多数派になるか不明である。より難しいが、共和派(の一部)との協力もありうる。これらがすべて作動せず、敵対勢力とのコアビタシオンすら機能しない場合、大統領と議会の対立は統治機能不全に結びつく可能性もある。

3つ目は、「前進!」が少数派に終わり、多数派主導の議会運営に大統領が従わざるをえないシナリオだが、この場合は、当面、コアビタシオンで忍従の日を過ごし、いつの日かの議会解散で再起を期すだろう。ただし、そうなったところで、確実に勝つとは限らない。今まで大統領が議会を解散した例は第5共和制では2回しかなく、そのうち1997年にはジャック・シラク大統領の与党多数派が負けて下野し、コアビタシオンを余儀なくされた。

フランスに走る「分断線」を埋められるのか

「3重問題」の第2として、マクロン新大統領が国民議会選挙を乗り切ったとしても、それはパリの統治機構という船の上を制御したにすぎず、その下でフランス社会という荒ぶる大海を制御したことにならない。これが、彼にとって内政上最大の構造問題である。

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