トランプ大統領の発言には、これまでの外交や国際金融の常識から大きく外れたものが少なくない。国際関係には長い歴史の中で衝突を回避するために、はた目には不可思議に見える慣習があるが、これを無視することは不必要な摩擦を生む。また、貿易収支の赤字を「損失」と表現し、国際収支の黒字・赤字を企業損益の黒字・赤字と同じように考えているように見えるなど、企業経営者としての手腕はあるのだろうが、一国の経済や世界の政治・経済の運営には不安を覚えさせる。
2月10日に行われた日米首脳会談では、広範囲な経済対話の枠組みを新設することで合意し、麻生太郎副総理兼財務相とペンス副大統領がそれぞれの交渉においてトップとなることになった。懸念されていたような為替レートや自動車などの個別具体的な要求が持ち出されなかったことに日本国内では安堵の声が聞かれる。しかし、経済対話の中で個別の話は蒸し返されることになるだろうし、そもそもの問題は別のところにある。
経常収支の不均衡が拡大し長期化すると問題
米国が対中貿易や対日貿易で大幅な赤字だから、日本や中国の貿易が不公正だというのは、確かに的外れな批判である。原油輸入に頼っている日本は、必然的に産油国との貿易では大幅な輸入超過になってしまい、その赤字をどこかほかの国との貿易で輸出超過にすることで補う必要がある。日本と産油国の貿易収支を均衡させようとするのは、石油と日本製品とを物々交換しろというようなものだ。産油国は日本が購入したい原油に相当するほどの日本製品を必要としているわけではないので、2国間の貿易収支が均衡しなくてはならないというのは意味がないのである。
しかし、米国との2国間だけではなく全世界に対してでも、中国は大幅な貿易黒字となっており、経常収支も大幅な黒字であるという点はやはり問題だ。日本も東日本大震災の後は貿易収支が赤字化したが、原油価格の下落もあって2016年には黒字に戻っている。また、経常収支は黒字が続いており2016年は20兆円を超える大幅な黒字である。
一方米国は大幅な貿易赤字のために経常収支も大幅な赤字だ。世界中の国の経常収支を足し上げるとゼロになるという関係は、本欄では繰り返し述べていることだが、中国や日本の経常収支黒字のツケを巡り巡って米国が払っているともいえる。このような世界的な不均衡はすぐに問題を引き起こすわけではないが、長期に累積すれば大きな歪みとなるおそれが大きい。
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