アメリカは宇宙開発も多国籍 どうすれば日本に人材を集められるか?

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新世代リーダーは、政治経済の分野だけに求められているわけではない。科学技術の分野にも、フロンティアを切り開く人材が必要とされている。当連載では、 MITで航空宇宙工学の博士号を取り、今年の5月からNASAジェット推進研究所(JPL)で勤務する筆者が、宇宙への熱い思いを語る。
Deep Space Network (DSN)の管制室。DSNはアメリカ、オーストラリア、スペインに配置された15基の大型パラボラアンテナから成り、24時間体制でボイジャーやオポチュニティーなどJPLが打ち上げた探査機と交信を行うための設備である。

前々回の記事に書いたように、スペースシャトルの打ち上げの閃光が迷いを吹き飛ばしてくれたおかげで、僕は宇宙への夢を取り戻した。さて、次は夢をかなえるために現実と向き合う番である。つまり、NASAに入るための就職活動だ。

一般的に、NASAの職員として雇用されるためには、アメリカの市民権(つまり国籍)を持っている必要がある。だが、僕が行きたかったジェット推進研究所(JPL)だけは、幸運にも扱いが異なった。JPLはNASAを構成するセンターのひとつであるが、歴史的な経緯により、その運営はカリフォルニア工科大学(Caltech)によって行われ、職員もCaltechによって雇用される。だから外国人も雇えるのだ。

事実、JPLでは多くの外国人が働いている。たとえば、現在、僕がJPLで所属しているグループには、ルーマニア人、イタリア人、ノルウェー人、フランス人がいる。JPLのトップであるチャールズ・エラチ所長もレバノン出身だ。火星探査車キュリオシティも、木星探査機ガリレオも、そして海王星に到達した唯一の探査機であるボイジャー2号も、実はこうした多国籍チームによって開発されたものなのだ。しかしそれらの探査機は星条旗を背負い、成した科学的発見はアメリカの功績となるのである。

これは宇宙開発に限った話ではない。アメリカはプラグマティックに世界中から優秀な人材を集め、それを自らの力にする。それがアメリカの強さなのだと思う。

しかし、いくらJPLは外国人を雇えるといっても、誰でも雇えるわけではない。航空宇宙工学は国防と密接にかかわっているから、例外的なケースを除き、永住権(つまりグリーンカード)を持っている外国人しか雇わない。

余談になるが、いかなる業種においても、外国人がアメリカで就職活動をする場合、永住権の有無で雲泥の差がつく。雇用主が被雇用者のために労働ビザをスポンサーするには大きな手間とコストがかかるためだ。また、H-1Bと呼ばれる、技能労働者がアメリカで働くための労働ビザの発給数は年間6万5000件に限られている。2013年は応募開始からたった5日でこの上限に達してしまったそうだ。

学生ビザ(F-1)を用いてアメリカに留学した学生ならば、卒業後12カ月間に限り、労働ビザなしで職に就くことを許可するoptional practical training(OPT)という制度がある。この期間に雇用主から能力を認められれば、労働ビザや永住権をスポンサーしてくれ、その後もアメリカに残って働く道が開ける。2008年より、科学、技術、工学、および数学の学位を取得した学生に限って、OPTの期間が12カ月から29カ月に大幅に延長された。アメリカの意図は容易に推察できる。つまり、国の発展のために重要な理系人材を引き留めたい、ということだろう。

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