アメリカは宇宙開発も多国籍 どうすれば日本に人材を集められるか?

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宇宙開発はソフトパワー

話を戻そう。先に述べたとおり、日本が世界から人材を集めるには、短期的にはおカネを積む必要があるが、中長期的には、世界の誰もが「日本に行くこと」を夢見るような魅力を育まなければならない。そして、「国の魅力」を増すために、宇宙開発が一役買えると思うのだ。

JPLはロサンゼルス郊外の山の麓にある(出典:NASA/JPL)

僕はよく、なぜJAXAではなくNASA JPLに行きたかったのか、と聞かれる。決してJAXAが嫌だったからではない。それどころか、JAXAはNASAの10分の1程度の予算しか付けられていないにもかかわらず、金額以上のすばらしい仕事をしていると思っている。理由はもっと単純だ。以前の記事に書いたように、僕は小さい頃にJPLが開発した惑星探査機「ボイジャー」によってインスパイアされたことがきっかけで宇宙工学の道に導かれた。だからJPLに行きたかったのだ。掛布にあこがれた野球少年が阪神タイガースに入りたいと思うのと同じだ。

だから、もし僕が15年遅く生まれていて、小さい頃に日本の小惑星探査機「はやぶさ」にインスパイアされたならば、たとえ僕がアメリカ人であったとしても、NASAよりもJAXAに行きたいと思っただろう。後10年もすればきっと、「はやぶさ」によって宇宙工学の道に導かれた優秀な人材が、JAXAを目指すようになるに違いない。その中には外国人も多くいるかもしれない。宇宙開発が生む価値は科学的成果のみではないのだ。

今後もJAXAが世界の子供たちをインスパイアするような仕事をたくさんしていけば、日本の「ソフトパワー」を強め、将来、日本で働きたいという夢を持つ人を増やすことに、少なからず貢献するのではないかと、僕は思う。

小野 雅裕 NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)技術者

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おの まさひろ

1982年大阪府生まれ。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程修了。2012年より慶應義塾大学理工学部助教。2013年より現職。火星ローバー・パーサヴィアランスの自動運転ソフトウェアの開発や地上管制に携わるほか、将来の宇宙探査機の自律化に向けたさまざまな研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。

ブログ: onomasahiro.net/
Twitter: @masahiro_ono

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