1ドル=80円~88円、円安のピークは上半期
専門家に聞く2013年の為替見通し

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12年を振り返れば、春先以降、常に円は主要通貨で最もドルに対して弱かった。最も重要な理由として、基礎的な需給構造がこれまでとは全く変わっていることが挙げられる。そのため、1ドル=75~76円のような超円高はそもそも肯定されない状況になっていた。

すでに日本では貿易赤字が定着しており、輸出企業が外貨を売って、円を買うことで円高になるという国ではなくなっているからだ。つまり、実需の資金フローに従えばもともと円高にはならないというのが現状の円相場の需給構造であり、そこへ政治的な突風が吹いて、円安が加速しているという理解をすべきである。

基礎的な需給の構造変化の背景は、(1)経常黒字の激減(貿易赤字の増大)、(2)金融市場のムードがリスクオフからリスクオンへ転換し、日本国債を中心とする海外から日本への対内証券投資が減ったこと、(3)日本企業のクロスボーダーM&Aの増加により、円の売り切りが増えたことである(12年10月のソフトバンクによる約2兆円の海外企業買収が記憶に新しいだろう)。

こうした諸々の要因が折り重なって、円を巡る需給構造が円高を支持しなくなっているのが現状である。

円安が行き過ぎた場合のデメリットもテーマに

13年の表向きのテーマは、「円安がどこまで進み、景気が回復するか」だろうが、一方で、裏向きのテーマとして「どの程度まで円安が進むと、日本企業にとってデメリットが出始めるか」と言うことが問題になってくるのではないか。円安で輸出企業の収益が上がった06年~07年と比較すると、原油価格はすでに3割程度上昇している。

日々報じられる輸出企業関係者の声を聞くと、1ドル=90円まではメリットのほうが大きそうである。しかし、仮に1ドル=100円になって、原油価格が1バレル=100ドルという状況が続けば、企業の収益が大丈夫なのか、という疑問も出てきそうである。

円安が行き過ぎればコストが高くなる。例えば、日銀の輸入物価統計を円ベースと契約通貨ベースで比較してみると、円ベースの指数はだいぶ低く抑えられてきており、円高によって得する部分もあったことがよくわかる。また、究極的には望んでいない「悪い円安」が起こってしまった場合、思い通りに止めることは難しいと言う論点も認識しておきたい。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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