金融政策や財政政策は根本問題を解決しない 対症療法でむやみに薬を飲むべきではない

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確かに物価が下落を続けるということは、経済が変調を来たしているという証拠だが、それ自体が問題の根源というわけではない。病気になると熱が出るが、発熱自体は病気の本体ではないので解熱剤で熱を下げたところで病気は治らず、薬が切れればまた熱が出てきてしまう。これと同じように、物価が下落するという症状だけを経済政策で変えても根源にある問題を解決したわけではないので、政策を縮小していくと元に戻ってしまうのだ。

財政支出の増加や減税による需要創出を行えば、需要不足という問題は緩和して経済活動は活発化する。経済の悪化が、何かのショックが引き起こした一時的な需要不足によるものであるならば、経済は元の経路に戻り大幅な財政赤字は短期間で終了させることができる。

しかし、バブル崩壊後の日本経済は慢性的な需要不足になっており、財政赤字による景気刺激を縮小しようとすると景気が悪化してしまい、財政赤字を縮小することができないでいる。

対症療法を繰り返すと体力は低下していく

このまま経済の低迷が続く中で大幅な財政赤字を出し続ければ、どこかで国債の信用が低下して、国債の借り換えが難しくなるという形で財政運営が困難になっていくだろう。一方で、財政政策と金融政策を駆使して大規模な景気刺激を行えば、日本経済を安定成長経路に戻すことができるという保証はない。景気刺激のために政府債務を大幅に積み増すというのは、財政危機に陥る時期を早めてしまうリスクが大きい。

幸いなことに現時点での日本経済は、失業率が3%程度にまで低下していて、今すぐに大規模な景気刺激策を打ち出さなければならないという危機的な状況ではない。

病気の本体を治療せずに対症療法だけを繰り返していても患者の体力が低下していくだけだ。2017年度の消費税率引き上げの可否に注目が集まってしまったが、国際金融経済分析会合で高名な経済学者が日本経済不振の根本的な原因についてどのような診断を述べたのかは興味深い。むやみに薬を飲まずに、病気の原因を見極めるべきだ。
 

櫨 浩一 学習院大学 特別客員教授

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はじ こういち / Koichi Haji

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科修士課程修了。1981年経済企画庁(現内閣府)入庁、1992年からニッセイ基礎研究所。2012年同社専務理事。2020年4月より学習院大学経済学部特別客員教授。東京工業大学大学院社会理工学研究科連携教授。著書に『貯蓄率ゼロ経済』(日経ビジネス人文庫)、『日本経済が何をやってもダメな本当の理由』(日本経済新聞出版社、2011年6月)、『日本経済の呪縛―日本を惑わす金融資産という幻想 』(東洋経済新報社、2014年3月)。経済の短期的な動向だけでなく、長期的な構造変化に注目している

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