英国の名門新聞が、ついにネットに殺された 「インディペンデント」が電子版オンリーに

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敗因を4つにわけて分析してみよう

1つには、経営陣に恵まれなかったという点がある。英国の新聞の伝統は、富裕な企業家が発行するというもの。インディーは、その道からはずれたところで生まれた新聞であり、今流で言えばスタートアップの新聞だった。ジャーナリズムや制作技術に常に投資をし、ライバル紙が仕掛けてくる安値競争に負けないだけの資金を持つ、安定した経営者を維持できなかった。

2つ目は電子版投資に立ち遅れたことで、新聞社全体としてのプレゼンスを後退させたこと。ほかの全国紙と比較してネット上のプレゼンスが低い状態が続いてきた。昨年12月の1日平均ユニークユーザー数はガーディアンが780万人(前年同期比33%増)、テレグラフが580万人(22.4%増)であるのに対し、インディーは280万人(33.3%増)だ。

ネットの普及で、国際語・英語による無数のニュース情報が私たちの手元に届くようになった。電子情報の波をかきわけ、トップに立つには相当の投資が必要となるが、まずは自らが最新技術を取り入れ、編集スタッフがこうした技術やツールを率先して使うことが肝心だ。そうしてこそ、読者からの支持が得られるようになる。米バズフィードを模した、ミレニアル層向けニュースサービスとして「i100.co.uk」を始めたものの、こうした試みは、もっと早い段階から手を付けるべきだった。

広告収入が激減

3つ目は、新聞市場の変化だ。日本同様、英国の新聞はどこも発行部数と広告収入の下落が引き起こした穴を埋めるために苦労している。

2015年、紙媒体の広告収入の減少率は前年比10%、減少額は前年比1億1200万ポンドに上った。調査会社エンダース・アナリシスによれば、これは英新聞界の年間利益のほぼ半分に当たるという。全国紙に限れば、広告収入は2010年以降の5年間で3分の1に激減した。インディーはこうした市場の変化の大波に打撃を受けた。

4つ目は、その政治的な主張が読者の支持を十分に得られなくなったことだ。

政治姿勢によって分けると、全国紙4紙の中でタイムズは保守派、テレグラフはやや庶民的で保守派、ガーディアンは左派系リベラル紙。インディーはガーディアンよりも左系で、「ラジカル左派」として自社の意見を明確に出す姿勢を強調してきた。

2003年のイラク戦争への反対姿勢で支持を集めた後、表紙を印象的な写真や画像、文字で埋める、ポスターのような1面を作った。あえて自社の論説をはっきりと表に出すインディーは特定の目的のために論を張るキャンペーン紙のように見えたこともあった。

中東取材のベテラン、ロバート・フィスク氏やパトリック・コックバーン氏などによる優れた国際報道を維持し、有色人種や性的少数者の問題を丹念に追ってきたものの、キャンペーン紙的姿勢が強くなったインディーは、「2番目の選択肢」であり、最初に選ばれる新聞としてのポジションになかなか行けなかった。

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