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蚊を叩き潰して血を見た人が知らないドラマ 彼女は子どものために命懸けで侵入してきた

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それだけではない。

蚊の体重は2~3ミリグラムだが、血を吸った後は、5~7ミリグラムにもなる。重い血液を抱えてふらふらと飛びながら、人間に打たれないように帰還しなければならないのだ。

何という困難なミッションなのだろう。

血をたっぷりと体に詰め込んだ彼女は、重い体でフラリと空中へ飛び立った。

しかし、体がふらついてなかなか姿勢が安定しない。思うようにうまく飛べないのだ。

それでも彼女は、懸命に翅(はね)を動かした。

無事帰還のエンディングとなるか

こんなところで諦めるわけにはいかない。彼女のお腹の中には、新たな命が宿っているのだ。何とか出口を見つけなければ……どこかに出口はないか。

そのときである。

彼女は、かすかな空気の流れを感じた。もしかすると、どこかの窓に隙間があるのかもしれない。もし、映画のワンシーンであれば彼女はそっとほくそ笑んだかもしれない。

しかし、この一瞬の喜びが、彼女に一瞬の油断をもたらしたのだろうか。

「ピシャリ」

空気を切り裂く大きな音がした。

ふらふらと飛んでいる蚊を見つけて、誰かが平手を打ったのだ。

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その手のひらには、真っ赤な血がべったりとついている。

「嫌だわ。手に血がついちゃった」

人間は、ペチャンコになった彼女の体を乱暴にティッシュペーパーで拭き取ると、それをゴミ箱に放り捨てた。

もう夕暮れである。

外の木陰には、蚊柱ができていた。

ただ、それだけの夕暮れである。 

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