公演後、ファンから届いた「みんなの夢だった」という言葉も忘れられない。
「武道館公演を終えて、あれは自分だけがやりたかったことじゃなかったんだと気づかせてもらいました。これだけ多くの人が待ち望んでくれていたんだな、ということを、皆さんの声から実感できたんです。それを聞いて、改めて感じたんです。頑張るのは、自分のためだけじゃないんだなって」
武道館で手にしたのは、自分への自信だけではない。歌い続けることが、誰かの夢にもつながっているという実感だった。
ただ、そこにたどり着くまでの10年間、つねに前を向いて走り続けていたわけではない。
「こういうアーティストでなければ」を手放した先に
2021年末、山本は活動休止を発表した。
以前の取材では、休止中に音楽とは違う道も考えたことを明かしている。それでも、音楽から離れるうちに、歌いたい、ライブがしたいという気持ちが自然と湧き上がってきた。
「それからは、『こういうアーティストでなければ』という意地を捨てて、もっと自由にやればいいと思えるようになりました。それがすごく楽になったんです」
その変化は、曲作りにも表れている。
アルバム『Narrative』に収録された「リトリート」には、将来への迷いが映し出されている。
「活動を再開してしばらくたった頃、将来のことや、この先のことを考えれば考えるほど、どうしたらいいのかわからなくなる時期があって。一度、何も考えたくないという気持ちになっていました」
そんなとき、ギターを弾いていると、メロディーと歌詞が同時にあふれ出した。それを、心の底から出てきた叫びのように感じたという。
「だからこそ、未完成の状態でもライブの弾き語りでワンコーラスを歌いました。そのときの思いの鮮度というか、温度が残っているうちに、形にしておきたいと思ったんです。
悩んだことや苦労したことを、マイナスのままで終わらせたくないという気持ちがあるんです。だから、そういう感情を自分の中で消化するために、曲を書いて歌っているところもあると思います」


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