さらに話を聞くと、家庭の事情もさまざまだった。保護者が働いていないと話す生徒もいたという。もちろん、その事情も、勉強への向き合い方も一人ひとり異なる。親の就労状況だけで、生徒が勉強に向かわない理由を説明できるわけではない。
ただ、Iさんにとっては、自分と同じような家庭で暮らしているわけではない生徒と、実際に言葉を交わす経験だった。
「自分は恵まれていたんだな、と思いました。そんなに苦労せず東大にも行けたし、両親も優しかった。それって普通じゃないのか、って」
自分にとっての当たり前が、誰にとっても同じなのではなかった。
これは、Iさんに努力がなかったという話ではない。本人も、多少うまくいかないことには努力して対応してきたと話している。見直したのは、努力すれば何とかなると思えてきた自分の環境だった。学校へ来た自分の話を聞くべきだと感じたことも、自分が当然としてきた勉強への向き合い方を相手にも求めた反応だったのかもしれない。
友人が語った責任も、自分には縁のない話ではなくなった。教室で会った生徒たちと、自分を支えてくれた環境。その両方を知ることで、自分にできることの使い道を考えるようになった。
官僚という仕事を選ぶ
ゼミで聞いたノブレス・オブリージュという言葉にも、そこでようやく実感がともなった。自分が学んできたことを、今度は誰のために役立てられるだろう。そう考えるようになったIさんが選んだのが、官僚という仕事だった。
「試験自体は自分にとっては簡単でした。面談はすごく多かったですけど、そういう経験を話したら、割と評価されたのかなと思います」。教育支援での経験や、そこで考えたことも話した。
その経験が評価されたのかもしれないと、本人は振り返る。採用する側が実際に何をどう評価したかまではわからないが、Iさんは官僚になった。
「激務だと聞いていたんですけど、今のところは、まだそこまでという感じではないです。時期によっては、かなり忙しいですけど」


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