子どもの頃から予告されてきた、大きな苦労や挫折。今の話を聞く限り、それを経て別人になった、という人生ではない。
勉強は得意なままで、受験も採用試験も通った。ただ、自分の能力や置かれた環境を、どう受け止めるかが変わった。
「あのとき、日本の将来を担うとか言っている友達を冷笑していた自分が、官僚かあ、と思うと、なんだか不思議な気持ちになりますね」
順調に進んできた自分の足元を見直すと…
幼い頃は、掛け算を99×99まで覚えようとした。得意なことを広げるのが面白かった。大学に入り、今度は、その得意さが誰にでも同じように使えるものではないと知った。Iさんの進路を変えたのは、自分には解けない難問ではなく、ノートを開かない生徒だった。最初は相手の態度に戸惑い、やがて自分が当然だと思ってきた条件を問い直した。
神童と呼ばれるような能力が、そのまま社会への関心につながるとは限らない。Iさんの場合、その間にあったのは、友人の言葉と、自分とは違う生活を送る生徒たちとの出会いだった。大きくつまずかなければ、見えるものは増えないのか。彼の歩みは、そうとは限らないと感じさせる。順調に進んできた自分の足元を見直すことも、その後の道を変える経験になる。日本の将来を語る友人に驚いた青年は、今、その言葉を自分の仕事に重ねている。


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