ところが、成婚退会が視野に入ってきた頃、みえからひさおに思いがけない知らせがあった。年に1度の健康診断を受けたところ、乳がんが見つかったという。
早い段階で発見され、医師からは治療について前向きな見通しを聞いていた。それでも、診断を受けたみえの不安が消えるわけではない。これからどんな治療を受けるのか。体調や仕事、暮らしはどう変わるのか。みえは大きく動揺した。
そして、ひさおに告げた。「結婚は、取りやめにしたい」。
ひさおは「病気になったときこそ、みえちゃんを支えたい」と伝えた。しかし、みえの気持ちは変わらなかった。女性としての自信をなくしていたし、自分の病気にひさおを巻き込みたくないと思っていた。
初めて打ち明けた自身の過去
「なんとかみえちゃんの力になりたい。ずっとそばで支えたい」。そう思ったひさおは、自分の過去を初めて打ち明けた。
41歳のとき、転職先で上司からのパワハラを受け、うつ病になったこと。仕事を辞め、約1年療養したこと。その後、再就職して今の生活を築いてきたこと……。
それまで、ひさおはみえにこの経験を話していなかった。お見合いで何度も断られた彼には、過去を知ったら、みえも離れていくのではないかという怖さがあったのだ。だが、みえが病気を理由に身を引こうとしている今、ひさおは自分も病気になったことがあると伝えたかった。
「一生を通じて、ずっと健康な人なんていないと思う。僕も病気になって、休んで、また働き始めた。病気になったら治療をして、生活を続けていく。それが人生なんじゃないかな」
さらに、ひさおは言った。「結婚したら、パートナーが病気になったときに支えたい。僕は、みえちゃんとそういうふうに生きていきたいんだよ」。
みえは、それでもためらった。治療への不安はもちろんあったが、ひさおには言いにくい心配も抱えていた。「もし抗がん剤治療が始まって、髪の毛が抜けたら……。そんな姿をひさおさんに見られたくない」。
ひさおに「支えたい」と言われても、病気でボロボロになっている姿を見せるのは怖い。大好きな相手だからこそ、なおさらだった。


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