興味深いことに、肌に触れなくてもオキシトシンは増えます。
優しい言葉をかけられたとき、誰かに共感されたときにもオキシトシンは分泌されます。しかし最も強く働くのは、やはり身体的な触れ合いです。握手、ハグ、肩に手を置く。そうした小さな接触が、脳に「安全」という信号を送ります。
人間にとって安心とは、頭で考えるものではありません。まずは、身体で感じるものなのです。
オキシトシンとは何か
オキシトシンは1906年、イギリスの生理学者ヘンリー・デールによって発見されたペプチドホルモンです(ペプチドとは、アミノ酸がいくつか連なった小さなタンパク質の断片のことです)。脳の視床下部で作られ、下垂体後葉から血液中に放出されるほか、脳内の神経回路にも直接作用します。
「絆ホルモン」「愛情ホルモン」という別名が広く知られていますが、その作用はこのような感情だけに留まりません。体温調節、骨の維持、心臓の保護、免疫の強化、睡眠の質の向上などなど、非常に多機能な物質です。
もともとオキシトシンは、哺乳類が進化する過程で「出産・授乳・育児」のための物質として発達してきました。出産時に子宮を収縮させ、授乳時に乳を押し出す。これがオキシトシンの原始的な役割です。
しかし進化の過程で、その機能は大きく広がりました。「子どもを守る」という行動の根底にある「他者との絆」という感情を支える神経基盤へと進化したのです。
では、オキシトシンが絆(つながりの感覚)を支えるメカニズムについて見ていきましょう。
アメリカの神経科学者イナガキらは、興味深い研究を行いました。参加者に1週間にわたり、「今日、どのくらい人とつながっている感覚があるか」について尋ねると同時に、深部体温を繰り返し記録してもらったのです。
すると、つながりの感覚が強い日は体温が高く、孤独を感じる日は体温が低い傾向があったのです。「心の温かさ」と「体の温かさ」が、見事に連動していたのです。


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