出産の直後、ある小さな奇跡が起こります。
赤ちゃんが生まれると、医師や助産師は多くの場合、その赤ちゃんを母親の胸の上にそっと置きます。まだ目もはっきり開かず、身体も濡れたままの小さな命が、母親の胸に触れます。
すると、不思議な変化が起こります。
さっきまで泣いていた赤ちゃんが、次第に落ち着いていくのです。呼吸がゆっくりになり、心拍数も安定し、身体の動きも穏やかになります。
そして母親のほうにも変化が起こります。
胸の奥から、言葉では説明できないような温かい感情が湧き上がってきます。涙が出る人もいます。抱きしめたい、守りたいという気持ちが自然に生まれてきます。この瞬間、母親と赤ちゃんの身体の中では、ある物質が大量に分泌されています。それがオキシトシンです。
オキシトシンは「愛情ホルモン」や「絆ホルモン」と呼ばれることがあります。皮膚と皮膚が触れ合うと、脳の中で分泌され、不安がやわらぎ、安心感が生まれます。
実際、近年の医療ではこの仕組みを利用したケアが広く行われています。「カンガルーケア」と呼ばれる方法です。生まれたばかりの赤ちゃんを母親の胸の上に直接置き、肌と肌を触れ合わせるのです。この接触によって、赤ちゃんの体温や呼吸が安定し、母親のストレスも大きく減ることがわかっています。
「触れること」の効果
ここに紹介した2つのエピソードの共通点は、人間の身体にもともと備わっている仕組み、「触れること」です。
触れることで神経が安定し、安心が生まれる。安心が生まれることで、心が落ち着く。この仕組みは、人類の進化の中で重要でした。人間は1人では生きられない動物です。
仲間と協力し、子どもを育て、集団で生活してきました。そのため、信頼できる相手の存在は生存そのものに関わっていました。オキシトシンは、その関係を支える物質です。


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