ただし、abletoは始まったばかりの取り組みだ。中尾さんは「まだ1年ほどなので、これからの部分は大きい」としている。交流を通し、学生からは「自分から伝えなければ、周囲は何に困っているのかわからないし、配慮もできないのだと気づいた」などの声が寄せられたという。こうした小さな手応えの積み重ねが、今後の採用や定着につながっていくはずだ。
対話を通じて誰もが働きやすい社会に
なぜ中尾さんは、ここまで「対話」という手間のかかる方法にこだわるのか。そこには、中尾さんが携わってきた障害のある人たちのものづくりブランド「equalto(イクォルト)」での経験があった。
equaltoは「就労継続支援B型事業所」で働く障害のある人たちが手がける商品に、デザインの力で付加価値をつけ、工賃を引き上げていくプロジェクトだ。
障害のある人が働く就労継続支援B型事業所は雇用契約ではないため、最低賃金が適用されない。そのため、工賃が安いことが課題だった。中尾さんはコンサルティング会社やデザイナーと組み、障害のある人がつくるものの価値を上げ、工賃を上げるしくみをつくった。
「equaltoの経験から、本人と対話することの大切さを教えてもらいました。たとえば、『仕事はやりたくない』と話していた方が、実は過去に仕事がうまくできなかった経験をしていました。そこで、何をしてみたいかを本人と話しながら一緒に仕事を試していくと、自分にもできることがあるとわかり、『もっと働きたい』という思いを話してくれたんです。本人の言葉の背景にある経験や思いを、対話を通して一緒に探っていくことが大切なのだと気づきました」
equaltoでの経験により、対話を通じて本人の思いや考えを知り、お互いの認識をすり合わせていくことが、働き続けるためには大切なのではないかと中尾さんは感じるようになった。その気づきは、その後の研究や実践を通じて深まり、現在のabletoにもつながっているという。
とはいえ、対話を通して理解を深めるのは、実際はとても手間や時間がかかることだ。効率だけを考えたら、まっさきに省略したくなるかもしれない。けれど中尾さんは、こうした時間こそ、決して手放してはいけないものだと信じている。
「障害の有無に限らず、働く人にはさまざまな事情があります。介護や子育てをしていたり、病気になってしまったりということもあるでしょう。こうした事情を1人で抱えるのではなく、誰かに相談しやすい環境になってほしいです。働きづらさのある人たちが安心できる社会はつまり、全員の働きやすさにつながると思っています」
法定雇用率が上がったことで、多くの課題が浮き彫りになってはいる。けれど、だからこそ中尾さんのように、一緒に働く方法を模索する動きも生まれている。こうした積み重ねにより、誰にとっても働きやすく、生きやすい環境になっていくのかもしれない。


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