もっとも、頭脳だけではロボットも自動運転車も動きません。現実世界へ出るためには、周囲を感じる五感、力を生み出す筋肉、その力を滑らかに伝える関節、指令を全身へ伝える神経が必要です。
少し比喩的に書きましたが、実際の産業の言葉に置き換えれば、五感はセンサー、筋肉はモーター、関節は減速機、神経は電子部品やアナログ半導体にあたります。
そして、この領域では日本企業が強みを持っています。
たとえば「五感」にあたるセンサーでは、ソニーグループやキーエンスが存在感を持っています。
「筋肉」にあたるモーターでは、ニデックが有力です。
「関節」にあたる減速機では、ナブテスコが知られています。
「神経」にあたる電子部品では、村田製作所、京セラ、イビデンなど多くの日本企業が重要な役割を果たしています。
さらに、産業ロボットやFAの現場ではファナック、安川電機、オムロン、三菱電機、物流分野ではダイフクなども無視できません。
ここで大切なのは、日本版エヌビディアを1社探すことではありません。日本の強みは、身体をつくる部品や現場実装の層が分厚いことにあります。しかも、それぞれの分野で長年磨かれた品質、耐久性、現場対応力があります。
派手さはなくても、いざ量産し、長期間の安定運用をする段階になれば、このような企業群の価値は非常に大きくなるのです。
忘れてはならないアナログ半導体
フィジカルAIの文脈では、最先端のGPUばかりに目が行きがちです。しかし、実はアナログ半導体も非常に重要です。
なぜなら、現実世界の温度、電圧、電流、音、光、圧力、位置といった情報は、そのままではAIが理解できないからです。それら情報を感知して、デジタル情報へ橋渡しする役目を担うのが、アナログ半導体です。
アナログ半導体は地味ですが、本当に大切です。人間でいえば、目や耳で受け取った刺激を神経が脳へ伝えるようなものです。どれほど賢い頭脳があっても、入力が雑なら正しく動けません。フィジカルAIにおいて、現実世界をきちんと測り、正しく制御するためには、アナログ半導体や電源制御、通信部品の品質がものをいいます。
ですから、フィジカルAIの市場が広がることは、先端GPUの需要が増えるだけではないのです。センサー、電源、制御、通信、電子部品、パッケージ基板といった裾野全体の需要が広がることを意味しています。
投資家としては、そうした広がりを見落としたくありません。主役だけを追うより、その周囲で安定的に恩恵を受ける企業へも目を向けるのは、有効な戦略だと思います。


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