アメリカによる国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長への制裁をめぐり、日本政府の対応が必要なレベルを超えて政治化している。筆者は、この問題を「法の支配か日米同盟か」という二者択一で捉えること自体が間違っていると考える。日本政府が送り出した赤根氏を支えることは当然だ。同時に、日本の安全保障の基軸である日米同盟を傷つけることも避けなくてはならない。そのために重要なのは、赤根氏への制裁の問題を日米間の政治的対決に発展させず、外交実務によって処理することである。
赤根氏が置かれている状況は深刻だ。朝日新聞は次のように報じた。〈赤根氏が会見を開いたのは、米国による制裁を黙認し続ければ、法の支配の守り手であるICCが機能不全に陥るリスクがあるためだ。/米国が赤根所長ら個人に加え、組織全体を制裁対象にすれば、捜査や送金といった実務が滞りかねない。/赤根氏は「最終的に(ICCの)解体が起きた場合、力の支配が法の支配を駆逐していく過程に入ってしまう」と指摘。「私たちはあきらめない。つぶしてはならないし、必死になってそれに抵抗する」と述べ、「脅威のために押しつぶされるようなことはない。正義は常にこれと対極にあるものに優越しなければならないという信念を貫く」と強調した〉(8月26日朝日新聞デジタル版)。
米トランプ政権の制裁は政治的意思表示にとどまらず、金融、移動、宿泊など赤根氏の日常生活と職務遂行にまで影響を及ぼしている。さらにICC全体に制裁が拡大すれば、国際刑事司法の機能そのものが損なわれかねない。
しかし「日本政府はアメリカに正面から抗議せよ」「高市早苗首相がトランプ大統領に制裁解除を迫るべきだ」という結論を導くのは短絡的だ。外交では何を言うかだけでなく、誰が、どのレベルで、どのような形で言うかが重要だ。首脳レベルに問題を引き上げれば、双方の政治的威信が懸かり処理が難しくなる場合がある。
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