手術は1週間後。その間も出血は続き、吐き気は日に日に悪化した。空腹になると気持ち悪くなって吐いてしまう一方、食べれば胸焼けがする。夜も吐き気で目が覚め、十分に休むことができない。
出社も難しくなり、手術日までは在宅勤務に切り替えた。
「お腹に赤ちゃんがいれば、このつわりのような症状も我慢するしかないって割り切れると思うんです。でも、自分の場合はそうではなくて。それなのに何でこんなつらい思いをしなきゃいけないの?って、どこにぶつけたらいいのか分からない悔しさや苛立ちにも苦しめられた1週間でした」
手術当日も吐き気は収まらず、手術台の上で嘔吐した。
「この時は悲しみよりも、早くこの不調から解放されたいっていう思いの方が強かったかもしれません」
全身麻酔による手術は30分ほどで終了。術後は吐き気が消え、久しぶりに食事もできた。後は回復していくだけ。そう信じて疑わなかったNさんの思いとは裏腹に、治療は終わらなかった。
手術台で聞いた“赤ちゃんの泣き声”
胞状奇胎の治療では、術後血液中のhCGというホルモン値を確認し、経過をみていくのが一般的だ。Nさんの場合、その値が思うように下がらなかった。
「術後は吐き気もなく、特に不調は感じていなかったんですが、子宮内に残った組織を取り除くために再手術が必要と言われてしまって……」
急遽決まった2回目の手術当日。Nさんが手術台に上がると、近くの部屋から赤ちゃんの泣き声が聞こえてきた。その瞬間、『悲しみ』という言葉だけでは言い表せない、さまざまな感情がNさんの胸を駆け巡った。
「前回より体調がよかった分、思考の余白があったのかもしれません。今までどこか非現実的だった自分の現状が、小さな泣き声を聞いた途端に唐突にリアルになって。傍にいた看護師さんが、無言で涙を拭き取ってくれたのを覚えています」


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