わたしはね、嫌いなことでもやっているうちには厭でなくなるの。女学校のときにね、一週間に十八時間の裁縫がありました。昔の女学校っていうものは、嫁入りの支度でしたからね。最後には十二単(じゅうにひとえ)まで教わりましたよ。嫌いだなんて言ってられないんです。嫌いでしたけど、お裁縫は。
で、とっても上手でした。嫌いなのに、やっているうちには、それが職業になっても平気になるぐらい、好きではなくても、平気でしたね。そのお裁縫のお蔭でね、わたしの一生は、皆それのお蔭だと思いますよ――馬込の頃は、着物はもちろん、足袋も自分で縫いました。足袋は、上手に縫うのが自慢でね。
そうやって結局は行き当たりばったりに、わたしの一生は、面白いってことに追いかけられてきました。だから、悔いはないですね。
怠けさせないのは気持がいいこと
人間って面白いよ。自分は何も変ったことはない、と思うんだけれども、他人から見たら、みんな変ってるのよ、同じ人っていないのよ。
昔はわたし喧嘩早くてね、あんなこと、怒らなくても、と普通の人なら思うようなことをすぐ怒ったりね。それが、この頃は、腹を立てない。
自然にね、言いたいことは我慢しないで何でも言えるようになったからでしょう。腹が立つ、不機嫌になる、ということは、ほとんどないと言っていいくらいです。
気の持ち方が一番大切ね。くよくよしたり、人の悪口を言うくらい健康に悪いものはありませんよ。
無理はしない、でも自分を怠けさせない。怠けさせないのは気持がいいことですよ――気持よく自然にしていて、自然に腹が立たないんだから。それが今のわたしにはごく普通の状態なの。



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