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沖縄で12年ぶりの保守系知事が就任…選挙戦を見た台湾研究者が覚えた「アイデンティティからエコノミーへ」の既視感

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選挙活動の盛り上がりは日本本土よりも台湾に近かった。写真は玉城デニー氏の演説(写真:筆者撮影)
  • 前原 志保 武雄アジア大学准教授・九州大学大学院人間環境学研究院 D-Be 部門学術協力研究員
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そうした研究者たちと話をしていると、ときどき私は、「自分の意見を述べることで、何か地雷を踏んでしまうのではないか」と緊張していた。

アイデンティティだけでは選挙に勝てない

そして、沖縄を見ながら何度も台湾を思い出したことがほかにもある。アイデンティティだ。

沖縄県知事だった翁長雄志が掲げた「イデオロギーよりアイデンティティ」という言葉は、2014年以降の沖縄政治を語るうえで重要な言葉となった。しかし今回の選挙を現地で見て、私の頭に浮かんだのは、「イデオロギーより、アイデンティティより、実感できるエコノミー」という少し乱暴な言葉だった。

古謝氏は県民所得の倍増や子育て、産業振興を前面に掲げた。一方、玉城県政に経済的な実績がなかったわけではない。それでも、統計上の数字が改善することと、一人ひとりが「自分の暮らしがよくなった」と感じることは同じではない。これは台湾の選挙でも何度も見てきたことである。政府がどれだけ経済成長率や雇用、賃金の数字を示しても、有権者が自分の生活がよくなったと実感していなければ、それだけで票にはならない。

もちろん、台湾と沖縄を単純に同一視することはできない。

台湾と沖縄では、歴史的経験も政治制度も、アイデンティティが政治問題となってきた文脈も異なる。それでも、台湾政治を研究してきた私には、今回の沖縄県知事選に既視感があった。

台湾では、長い民主化の過程で台湾人としてのアイデンティティが社会に広く共有されるようになった。しかし、「私は台湾人である」と考えることと、特定の政党に投票することは同じではない。台湾人アイデンティティが社会の前提に一定なったからこそ、政党はその先で勝負しなければならなくなった。沖縄でも、似た現象が起きているのではないだろうか。

沖縄には日本本土とは異なる歴史がある。沖縄戦の記憶を継承しなければならない。基地負担が沖縄に集中していることには問題がある。そうした沖縄の歴史や経験への認識を共有することと、特定の候補者を支持することは同じではない。だとすれば、「アイデンティティよりエコノミー」とは、アイデンティティが経済に負けた、という意味ではない。むしろ、アイデンティティがある程度共有されたからこそ、それだけでは選挙を決められなくなったのではないか。

沖縄県知事に就任した古謝氏は9月13日に行われた投開票で、42万票あまり獲得し、27万票あまりだった現職の玉城デニー氏を圧勝した。もちろん、この結果だけから、有権者が何を理由に古謝氏を選んだのかを一つに絞ることはできない。基地問題、経済、物価、子育て、県政への評価、辺野古転覆事故など、投票行動にはさまざまな要因が重なっている。

それでも結果を知った時、現地で2つの陣営を見ながら感じていたことを改めて考えた。今回の結果を、沖縄のアイデンティティが弱くなったからだと単純に読むことはできない。むしろ知りたいのは、沖縄のアイデンティティが広く共有される中で、それが実際の投票行動とどのように結びつき、あるいは結びつかなくなっているのか、ということである。

短い滞在と一度の選挙を見ただけで、沖縄が「わかった」とは到底言えない。台湾を20年以上見てきたからこそ沖縄で見えるものがあった一方、台湾という物差しを持っているからこそ、見誤るものもあるかもしれない。だからこそ、これからも台湾研究者として沖縄を学び、沖縄の歴史や現在を台湾に伝えることを、誠実に続けていきたい。

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