猪俣の逮捕後にはSNS上で「ジュニア時代から教育を受けていれば違ったのではないか」「まともな下積みを飛ばしていきなりデビューしたことに無理があったのではないか」といった趣旨の声が相次いだ。
たしかに、この主張には一定の説得力がある。ジュニア時代とは、歌やダンスを覚えるためだけの研修期間ではない。先輩が楽屋にいれば挨拶に行く、自分が主役ではないバックダンサーの仕事でも手を抜かない、スタッフから注意されれば直す、自分一人の軽率な行動がグループや事務所全体に波及することを知る。そのような細かな経験の積み重ねを通じて、「アイドルとして見られている人間はどう振る舞うべきか」という感覚を身につけていく準備期間でもある。
この事務所における「デビュー」とは、単に人気や技能が一定水準に達したことを意味するのではなく、そのような下積み期間を経て一人前のアイドルになったことを示すものでもあった。
タイプロが画期的だったのは、全国的な人気グループの正式メンバーになるまでに10年以上かかることも珍しくなかった世界で、オーディション合格と同時に「timelesz」という大きな看板を背負わせたことだ。それはスター発掘の方法としてはドラマティックだが、異例のショートカットでもあった。
先輩が礼儀や振る舞いについて助言
実際、加入後の教育を先輩メンバーが担っていたことをうかがわせるエピソードもある。新メンバーでジュニア経験のあった原嘉孝は、猪俣たちを先輩のもとへ挨拶に連れて行き、LINEグループで礼儀や振る舞いについても助言していたという。しかし、猪俣は2025年に出演した番組で、そのLINEグループを冗談めかして「お説教グループ」と表現し、「そろそろ抜けたいなあ」と話していた。
これはバラエティ番組内での発言であり、それだけで彼が先輩の教えを軽視していたと断定することはできない。タイプロ終了直後には猪俣自身が、原から「事務所の伝統」を教えてもらって意識が変わったとも語っていた。タイプロ合格後に旧来のジュニアが長い時間をかけて身につけてきたものを教わってきた構図はたしかに存在していたようだ。
もちろん、「猪俣がジュニアを経験していれば今回のような事件は起こらなかった」と断定することはできない。旧ジャニーズ時代を含めて、長い下積みを経験したタレントがのちに不祥事を起こした例はいくらでもある。ジュニア制度は人間性を保証する装置ではないし、数年の下積みで犯罪やトラブルを完全に防げるわけではない。


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