しかし、SIPで深海資源開発に伴う環境への影響を評価する「海洋環境影響評価システム開発プロジェクトチーム」のプロジェクト長として現場を見てきた山本啓之氏は「テスト段階と、商業化ではスケールが違うため環境評価ができない」と語る。
「SIPでは、(商業化に要されるような)影響評価はしてない。モニタリング技術の開発と影響評価は別のことです。『商業ベースでやります』となったときには、それだけのスケールの計算をしなければダメ。それはまだやっていない」(山本氏)
南鳥島のレアアース泥の層は、約3450万年前に形成されたものだ。ひとたび攪乱された海底が回復するには、少なくとも100年単位で時間が必要になるとみられるが、回復プロセスを観察するような長期モニタリングプログラムは、現状として存在しないまま進められている。
商業化で浮かび上がる「環境に優しい」技術の落とし穴
また環境負荷が少ないとされる閉鎖型の掘削システムにも、商業化を見据えると、避けられない問いがあるとアジア太平洋資料センター(PARC)事務局長の田中滋氏は指摘する。それは「何を海に戻すか」だ。
試験の段階では採取した泥はすべて船上に持ち帰り分析にかけるが、商業規模になれば泥のうち目当てのレアアースを含むのはごく一部で、大半は不要な泥になる。深海採掘の国際交渉の現場に参加した数少ない日本人オブザーバーでもある田中氏は、それをすべて本土へ運ぶのは現実的でない以上、いずれ海へ戻すことになるのではないかと分析する。
「本格的に商業開発するなら、(不要な泥を海に戻すための)リターンダクトは絶対に必要だ」(田中氏)
この戻される泥こそが、「プルーム」を生む。深海から吸い上げた泥を海の中層で放出すれば、金属を含んだ土けむりが広い範囲に漂う。中層に暮らす生物への影響や食物連鎖に入り込む恐れは、この「海に戻す」工程から生じうる。試験の段階では見えない問題が、商業化の瞬間に立ち上がる。
南鳥島でのレアアース開発について、一部では数年内に商業化しようという声もあるが、山本氏は、「2030年商業化」という期待に対しこう語った。
「SIPが調査でやっていることは、産業化には向いていない。1日350トンは土台無理だ。もし取れたとしても、それが商業的に『ペイするかどうか』は別問題である。(商業化までに)時間はかかるだろうなと思う」(山本氏)
レアアース泥は最も濃集した層でも、含まれるレアアースは重量の1%に満たない。財務省貿易統計(2025)によると日本が1年間に輸入するレアアースは約8200トン。目標通り350トンの泥を揚げても、そこから採れるレアアースはわずかで、商業生産と呼べる規模にはほど遠い。
また調査船「ちきゅう」による試験採掘は数日間にわたるものだったが、商業採掘では同じ場所に何カ月も停泊し続けることになる。「ちきゅう」の建造費は約700億円。南鳥島への片道は5日かかり、天候などの条件によって1日の運用費は1000万~4000万円に上るという。
「『船が停まっているだけだから燃料を食わない』わけではない。定点保持するために、停まっている間もスラスターは回しっぱなしである。1日1000万円以上は飛んでいく」(山本氏)


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