巨額を投じても、採れるレアアースがごくわずか。今の試験の延長線上で、この量を自前でまかなえる見通しは立っていない。海底に眠っている資源の量と、それを採算に合う形で取り出せることの間には、未だ大きな隔たりがある。
商業開発と調査を分けるヨーロッパ、そのイメージ戦略の賢さ
モラトリアムや一時停止措置によって商業開発にストップをかけながらも、試験自体はできる。公式にモラトリアムを支持しながら自国での調査・研究は続けるフランスやドイツの姿勢について、山本氏は「政治と探査を賢く分けている」と評す。
「フランスは海洋調査の研究機関が、ちゃんと調査には行っている。ドイツもそうだ。政治の世界では何かと言っているが、何もしてないかというと、いろいろやってる。賢いなという気がする」(山本氏)
フランスは実際、東太平洋に広がるCCZという海域にフランス国立海洋研究機関(Ifrémer)の探査ライセンスを持ち、1987年から海域調査を続け、科学的な知見と技術を蓄積し続けている。
イギリス海底資源社(UK Seabed Resources)を通じてCCZに探査ライセンスを持つイギリスや、連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)が同様の探査契約を国際海底機構(ISA)と結んでいるドイツも同様に、国際的な深海鉱物資源開発のモラトリアムを支持しながら技術開発と環境調査を続けている。
「ISAでコントラクトを持って調査することと、モラトリアムや予防的一時停止を支持することは、矛盾していない。なぜならそれらはどちらも、将来的な開発に関して完全に否定はしない立場だからだ」(田中氏)
むしろ、この2つを同時に手にすることには利点がある。いざ採掘を認める判断が下されたときに動ける技術と権利を保ちつつ、同時に「予防原則を重んじ、環境に配慮する国」という評判をも得られるからだ。
数年内の商業化がどのみち難しい日本が取るべき選択は?
環境へのリスクを回避しながら技術と知見を蓄積し、ルールが整った時点で動ける状態を保っておく——。日本にも、その道はある。
技術開発も、課題の解決も、国際ルール作りへの関与も、モラトリアムを支持していようがいまいが、どのみち進められる。むしろ支持すれば、フランスやドイツのように「環境に配慮する国」という評判まで手に入る。失うものは何もないはずなのだ。それでも日本は、モラトリアムを支持しない。
その動機は、単純ではない。レアアースのサプライチェーンを研究するウィスコンシン大学のジュリー・クリンガー博士は、複数の思惑が絡んでいると分析する。
「複数の理由があると思います。中国への依存の不安定さは、本物の懸念です。同時に、同盟関係の管理という側面もある。25年10月の日米の重要鉱物枠組みは、日本の採掘投資をアメリカの防衛サプライチェーンと明確に結びつけています。さらに、技術実証という側面もあります。海底採掘や探査における日本の技術的なブレークスルーは、それ自体が科学的にも外交的にも、そして高付加価値の輸出品としても、非常に高い価値を持つのです」(クリンガー博士)
研究者すら「無理」と言う2030年の商業化に、なぜこれほど固執するのか。その問いの答えは、レアアースという資源そのものよりも、それをめぐる地政学の側にあるのかもしれない。(次回へ続く)


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