この問題を追及する側からは、蔣家の歴史的な威光や「蔣家の子孫」という政治的イメージがこれまで一定の政治資本として機能してきた以上、血縁関係についても説明責任を果たすべきだとの主張が出ている。
一方、蔣氏を擁護する側からは、これは選挙前に蔣氏を攻撃するための政治的な問題提起にすぎず、本人の政治的手腕や市政の実績と、親世代の私生活や血縁をめぐる議論は切り分けるべきだとの反論が出ている。
また、一般の有権者にとって、政治家の血統そのものへの関心は以前ほど大きくないとも考えられる。ただ、血縁をめぐる疑問を投げかけられた際に、政治家がどのように説明するのかという「説明責任」や「透明性」の問題として受け止める層は存在するだろう。
26年11月の台北市長選への影響を考えると、この問題は単独で選挙情勢を決定づけるというより、長男の交換留学をめぐる問題などと重なることで、「政治家の家族」「特権」「世襲的な政治的イメージ」といったテーマを想起させる材料になる可能性がある。
とくに、これまでの「安定感」「穏健さ」「エリート性」といった蔣氏のイメージとは異なる論点が繰り返し浮上すれば、そのこと自体が有権者にどのような印象を与えるのかは注目されるところだ。
さらに蔣氏が将来的に国政、さらには総統選を視野に入れるのであれば、血縁や家族の歴史をめぐる問題は、台北市長選以上に広い範囲で議論される可能性がある。
DNA鑑定に応じるかどうかを含め、今後どのように説明していくのかは、単なる家族史の問題にとどまらず、政治家としての説明責任や危機管理のあり方を問う問題にもなりうるだろう。
野党「確実に現職との差は縮まっている」
では、これら一連の問題は実際の選挙情勢にどこまで影響しているのか。
9月中旬時点でも、蔣氏が優位を示す世論調査は存在する。一方、調査によってはその差が大きく縮小している。例えばTPOCが9月9日に公表した調査では、蔣氏33.9%、沈伯洋氏30.1%で、差は3.8ポイントだった。8月に公表された同じTPOCの調査では蔣氏48.4%、沈氏33.0%で15.4ポイント差だったため、調査時期や方法などの違いには注意が必要だが、少なくとも一部の調査では両者の差が大幅に縮小していることが確認できる。
また9月12日には、沈氏の陣営が独自の内部調査をもとに、蔣氏との差が1桁になったと発表した。これはあくまで沈氏陣営による説明であり、独立した複数の世論調査によって同じ数字が確認されたわけではない。ただ、こうした数字が公表されること自体、選挙戦の構図がこれまでとは異なる局面に入りつつあることを示す材料の一つにはなる。
さらに、沈氏が安全保障や対中政策をめぐる主張を前面に押し出す一方で、台北市政については市民の意見を直接集めるオンライン・プラットフォームを立ち上げるなど、地方政治を意識した活動も展開している。9月9日に発表した「市長,你給我聽好了(市長、私の話を聞いてください)」という市民意見収集プラットフォームも、その一例だ。
こうした動きが、国民党・民進党という政党対立を中心とした従来の構図をどこまで変えるのかは、今後の市政論戦や街頭活動、そして新たに公表される世論調査を見なければ判断できない。
少なくとも現時点では、「問題が重なったことで蔣氏の得票率が確実に低下している」とまでは言えない。一方で、答弁をめぐる批判、長男の交換留学問題、血統をめぐるDNA鑑定の要求、最近ではさらに、学校給食の安全性をめぐる問題という複数の論点が同時期に取り上げられていることは事実であり、これらが市民にどのような印象を与えるのかは、今後の選挙戦を読むうえで注視すべきポイントになるだろう。

