「『多摩は難しいのですが、日光か筑波山なら飛べます』とお伝えしました。『近いのは?』と聞かれたので、『筑波山です』と。茨城は私の故郷ですから、説明には困りません。山を下れば田園風景が広がっていますし、『つくば霞ヶ浦りんりんロード』というサイクリングロードもある。朝に出れば、夕方18時には都内に戻れますとご案内しました」
一家は相談し、筑波山行きを即決。そこから増田さんは、わずか30分で翌朝のヘリの手配と支払い、往復のハイヤー、ヘリポート、現地での行程まで組み上げた。
「戻ってこられた皆さんがとても喜んでくださって。それが何よりでした。『それはできません』で終わるのではなく、『では、こちらはいかがですか』と次の一手を出す。私にとっての『ノーは言わない』は、そういうことなんです」
できないことを、できるとは言わない。ただ、できないからといって、話を終わりにすることもしない。プロの矜持で手配を完遂し、サイクリングを鮮やかに成功へと導いた。
予定は未定、要望は突然。プリンセスの信頼をつかむ仕事術
サウジアラビアの王室関係者も長年の顧客だ。口コミで親戚や知人への紹介が広がっていったという。
「私の携帯電話番号が王室関係者の界隈で、一人歩きしているんです。ただ、電話が鳴るのはいつも、すでに日本に到着したあとです」
呼び出されてホテルへ向かうと、ワンフロアが貸し切られ、黒塗りのハイヤーが10台ほど並ぶ。護衛もベビーシッターも待機しているが、滞在中の予定は何も決まっていない。
「プリンセスから『今回はスキーをしたいの』と言われて、急いでスキー場を探したこともあります」
こうした顧客から信頼される秘訣を、増田さんは「空気を読むこと」だと語る。食事の席で誰がどこに座るのか、自分も同じテーブルについていいのか。それすら家族や文化によって異なる。
「誰も教えてくれないので、最初は少し引いて全体の様子を見るんです。すると、どうやら、プリンセスがすべてを決めるんだなと分かってきました。だから、自分から席には座らず、『恵美はここね』と言われてから、初めて座りました」
相手にとって心地のよい距離感をつかみながら関係を築いていくうちに、増田さん自身が旅に欠かせない存在として頼られることも増えていった。


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