理由を聞くと、「自宅にいる猫が年老いていて、残り少ない時間を一緒に過ごしたいから」とのこと。動物好きの人間なら、「なんとかしてあげよう」と動きたくなるストーリーである。
だが、人事のネットワークを甘く見てはいけない。現地の駐在員仲間や関係者から裏を取ると、とんでもない事実が発覚した。
彼には現地に若い愛人がおり、その女性と同棲するための「広い部屋」を得ようと画策している、というのだ。
年老いた愛猫ではなく、うら若き愛人との「愛の巣」ということか……。それを会社の経費で賄おうとするなんぞ、言語道断!
「もしそうなら、絶対に阻止しなければならない!」といきり立った私は、彼にこうメールを返した。
「Aさんのお気持ちは、人事としてもよく理解できました。つきましては特例として稟議を上げますので、猫ちゃんを日本から渡航させるために必要な手続き書類のコピーを提出いただけませんか」
すると数日後、A氏からこんな返事があった。
「猫の体調が急変し、長時間のフライトに耐えられないと獣医に言われました。引っ越しの件は取り下げます」
苦しい言い訳とともに、申請が取り下げられた。当然である。存在しない渡航書類など出せるはずがないのだから。この一件は無事に未遂で終わったものの、情に訴えかけてまで公私混同を企てる輩(やから)がいることに、私は深いため息をついた。
出張という名の「推し活」全国ツアー
こうした「制度の私物化」は海外に限った話ではない。出張という名の「推し活旅行」を満喫していた中堅の女性社員(35歳)もいた。
店舗開発を行う彼女は「現地調査」という名目で、定期的に地方出張を入れていた。成績もそこそこ良く、一見すると仕事熱心な社員なのだが、どうも出張先のエリアと時期に不自然な偏りがあった。不審に思った上司が周囲から得た情報をもとに、彼女の出張スケジュールを照らし合わせてみると、驚愕の事実が判明した。


※ログイン後、コメント入力が可能です。