ホンダには、日本一の販売台数を誇る「N-BOX」が存在する。それを考えると上記の結果は少なく感じる。しかし、N-BOXが体現する「スクエア・スペース最大化・実用」というイメージは、ムーヴキャンバスやスズキ「ラパン」が獲得している「丸みのある可愛いデザイン」「カジュアルなおしゃれさ」という情緒的価値とは明確に違う。
また、ホンダが伝統的に築いてきた「走り・技術・スポーティ」というアクティブなブランドパーソナリティも、彼女たちの「穏やかで背伸びをしない暮らし」の文脈とは乖離してしまっていたのかもしれない。
20年に価格納得感と接客でホンダから一度心が離れた彼女にとって、25年の購入時に「ホンダの軽自動車を検討する理由」は、ブランドの情緒的なミスマッチも相まって存在しなかったのだ。
一人ひとりを理解する必要性が強まる時代へ
今回、ある一人のホンダ離反者を描き出せた背景には、市場調査における技術的イノベーションがある。
従来のマーケティング実務において、ペルソナの設計と実行フェイズへの接続では多くの課題を抱えていた。
一般的なペルソナシートは、ターゲットのイラスト写真の横に「趣味:ドライブ・カフェ巡り」「性格:丁寧な暮らしを好む」といった、マーケターの思い入れや、後工程にプロモーションが控えていることを前提に描かれたものになりがちだった。これでは、実際の顧客と乖離が出ても不思議ではない。
一方で、1万人を対象にしたような定量アンケートは、信頼できる統計値は提供してくれるものの、「なぜRAV4なら300万円超支払えるのに、ヴェゼルに250万円超支払うのが嫌だったのか」という、顧客の心の奥底にある具体的な葛藤や、購買行動の文脈をあぶり出すことは難しかった。
今回取り入れた分析アプローチでは、この「統計的な信頼性(定量)」と「本音の深さ(定性)」の間を、生成AIテクノロジーによって橋渡ししようとしている。
顧客がブランドを去る背景には、競合商品の機能の優劣だけでなく、購入検討時に受けた接客のストレスや、ライフステージ変化に伴うブランドイメージのミスマッチといった、複数の文脈のズレが複雑に絡み合っている。
このような離反を未然に防ぎ、顧客のライフステージに寄り添い続けるために、これまで見えなかった顧客理解の真実を教えてくれるポテンシャルがAIにはあるだろう。


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