ちなみになぜ国民投票で原発廃止が決まったかというと、86年のチェルノブイリ原発事故がイタリア国民を恐怖に陥れたからだ。日本では遠い国の出来事だったかもしれないが、欧州では放射能を帯びた雲が各地に広がり、外出規制や野菜などの出荷規制が起きた。呑気で陽気なイタリア人というイメージとは裏腹に、実はとても怖がりで危機管理意識が高いイタリア人たちは、そんな恐ろしい原発はいらない、と決意したというわけだ。
そして年月が経ち、当時の政権が「そろそろ原発を再開しようか」と画策していたところへ、今度は2011年の福島原発事故が起きた。イタリア国民は再び原発にNOを突きつけ、現在に至っているというわけだ。
だが原発がないから電力が少なくてブラックアウトになる、という説は実は都市伝説で、実際には地中に埋められている配電ケーブルが、エアコンが一斉に稼働することでオーバーヒートし破損するのが原因だという。強烈な太陽光で50度にも熱せられたアスファルトの下に埋まっているケーブルは、地面の熱とケーブル自体の発熱によってゴムや樹脂の部分が溶けてしまい、ショートしてしまうという。しかもケーブルは電力をそれほど必要としなかった時代から使っている年代物だという。
だったらケーブルをもっと丈夫で新しいものと取り替える工事をさっさとすればいいのに、と日本人の私は思うのだが、イタリアにはそれができない事情がある。
イタリアの多くの都市に残る歴史的街並みは、地下にも歴史的遺物や無数の配管が残っている。今でも何かの工事で地下をちょっと掘ったらローマ遺跡が出てきた、なんていうことがよくあるほどだ。歴史的景観を残すための石畳も多く残っている。だから地下に埋まっている古いケーブルをすべて掘り起こして新しいケーブルと取り替えるというのは、イタリア人が暑い時は工事をやりたがらないという事情を差し引いても、極めて困難というわけだ。
冬の暖房はガスがメインだし、夏は穏やかな暑さしかなかったイタリアで、東南アジア並みの連日猛暑、エアコンフル稼働という状態に、古いインフラが追いついていないのが現状なのだ。
「熱中症」を知らず、汗をかけない欧州人
近年の欧州での「暑さによる」超過死亡者数を調べていて気がついたのは、欧州の人たちの間に「熱中症」に関する情報がまだまだ広がっていないらしいということだ。データを掲載している記事などに「具合が悪くなるのは直接日光にあたることだけが原因ではありません」と書かれているのを何度も見かけた。欧州で異常な暑さが続くようになったのはこの10年ほどのことだから、暑さ対策初心者というわけだ。
さらに、あまり暑くない国に生まれ育った人間には、体温調節を担う汗腺の数が少ないのだという。私の娘はイタリア人とのハーフで、イタリア生まれ、イタリア育ちだが、子供の頃、私の東京の実家で夏休みを過ごしていて、汗が出なくてつらそうにしていたのを思い出す。そんな人たちが、40度近くになる酷暑の中で過ごしたら、熱中症患者が激増するのも当然だ。


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