しかし次第に、読者は強烈な違和感と不穏さに襲われることになる。スポット紹介の端々に混ざる“盛り塩”の写真や、「これは現実か、フィクションか?」と混乱するような不穏な記述がどんどん増えていくのだ。
「見えませんか」
「時折、門のそばに人が立っているところを見ることができる。身近で亡くなった人の姿をしていることもあるが、おそらく別人だ」
「行きと帰りでトンネルの形が変わる」
さらにページを繰ると、色彩豊かな「るるぶ」のデザインは完全に消え、モノクロの写真群やベタ塗りの黒い誌面、怪しげなネット掲示板の書き込みスクラップ、関係者の手紙、削除された動画のコメント欄、編集者の不気味な記録テキストなどが展開される。
「一本足打法」から脱却しなくてはならない、苦しい背景
この「蓋ヶ瀬」という地域は、いったいどこにあるのだろうか。筆者も全国の地名データベースを探してみたが、その名は存在しない。
同書を担当するJTBパブリッシングライフスタイルメディア編集部担当編集長の長岡平助氏に問いただすと、「『蓋ヶ瀬』という地域が実在するのかしないのか、私どもとしても詳しいことは一切お答えできません」という禅問答のような回答が返ってきた。
正確な情報、信頼が売りである旅行ガイドが、なぜこの本を出したのか。いつものガイドブックだと思って手にする人もいそうなリアリティだが、社内で反対する人や混乱は生じなかったのか。
この本は「日本のどこかに存在する『蓋ヶ瀬』という地域をガイドする」という名目で制作がスタートしたという。しかし、「制作過程で収集された断片的な情報や怪奇現象の記録を忠実に収録した結果、このような異例の誌面構成にならざるをえなかった」(長岡氏)と話す。


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