とりわけ問題なのは、食品安全に関するルールや認証制度が存在することと、それが現場で実際に機能していることは、必ずしも同じではないという点だ。
ISOやHACCPなどの認証を取得していたとしても、日常の現場でチェック項目が形式化し、コスト削減や生産効率が安全管理より優先されれば、制度は十分な効果を発揮できない。
結局のところ、台湾で繰り返される食品安全問題を考える際には、企業の「モラル」だけを問題にするのではなく、低価格を求める消費者市場、厳しい価格競争、複雑なサプライチェーン、行政による監視能力、法制度による抑止力、そして企業自身の食品安全管理という複数の要素を一体として捉える必要がある。
今回の中聯油脂の問題も、単に「一企業の管理ミス」として片付けるのではなく、こうした構造的な問題がどこまで改善されてきたのかを検証する材料として見る必要があるのではないだろうか。
企業の不祥事から行政・政治の問題へ
最後に、台湾における食品安全・衛生問題は、人々の生活に直結することもあり、「単なる企業の不祥事」にとどまらず、「行政の管理責任」「与野党の政争」「政府への不信感」へと急速に波及し、国政や選挙にも影響を及ぼす政治問題へと発展しやすいという特徴がある。
過去の事件を見ても、その傾向は明らかだ。08年のメラミン事件では、当局の対応の遅れや判断の変更が政府への不信を招き、衛生署長の林芳郁が引責辞任する事態に発展した。当時、台湾では馬英九政権が発足し、中国との関係改善を急速に進めていた時期でもあった。
中国産食品・原料の安全性をめぐる問題が発生したことで、対中経済・人的交流の拡大に伴うリスクを警戒する世論が強まる一因となったとみることもできる。実際、メラミン問題では政府の対応をめぐって与野党の対立も激化し、食品安全が政治的な争点となった。
一方、11年の可塑剤事件では、政府が汚染の把握後、対象商品の回収や流通停止、検査などを急速に進めた。当時の馬英九総統も関係閣僚らを集めて対応策を協議し、政府として食品安全への信頼回復を急ぐ姿勢を示した。翌12年1月には総統選挙が控えていたが、馬英九は再選を果たした。
ただ、同年の選挙については、中台関係の改善実績や現状維持路線、経済政策など複数の要因が勝敗を左右したと分析されており、可塑剤事件が政権の致命傷にならなかったことだけを再選の理由とすることはできない。
他方、14年の廃食油事件では、食品安全をめぐる政府の対応そのものが大きな政治問題となった。
14年11月29日に行われた統一地方選挙(九合一選挙)では、国民党が大敗した。選挙前に15の県・市を掌握していた国民党は、選挙後には6県・市にまで勢力を縮小。6直轄市のうち国民党が維持できたのは新北市のみで、台北市では無所属の柯文哲、台中市や桃園市などでは民進党候補が勝利した。民進党は13の県・市を獲得し、国民党に大きく差をつけた。
この大敗については、廃食油事件を含む相次ぐ食品安全問題への政府の対応や、馬英九政権に対する不満が大きな背景の一つとなったと考えられている。


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