朱さんは上海市の保健当局にも同様の申し入れを行ったが、「病院は規定に従って証明書を確認しており、手続きに問題はない。当局が受精卵を廃棄させる権限はない。司法の場で解決するように」と拒否された。
病院によると体外受精にあたっては結婚証などを確認するものの、医療機関には公的に登録された婚姻登記データベースとオンラインで照合する権限がなく、印鑑や写真、身分情報などを目視で確認する審査にとどまる。そのため、精巧に作られた偽造証を見抜くことができなかったという。
一方、警察は偽造結婚証の使用について捜査し、夫と不倫相手に行政拘留5日の処分を下した。しかし朱さんにとって、この刑罰は自分が受けた精神的な傷と比べてまったく見合わないものだった。
行政による解決が望めないと判断した朱さんは、夫、不倫相手、病院の3者を相手取り、人格的な尊厳や精神的な平穏を著しく害した「人格権侵害」に相当するとして、慰謝料を求める訴訟を起こした。
26年7月30日、上海市徐匯区人民法院で初めての審理が開かれたが判決は出ず、審理は次回に持ち越された。
朱さんはさらに検察当局に対し、夫を重婚罪で刑事立件するよう求める申請を提出している。夫も朱さんに対し離婚訴訟を起こし、争いは泥沼化している。
朱さんがメディアの取材に精力的に応じて社会に問題提起すると、夫もマスコミに自分の主張を公表し、騒動は収まる気配がない。
妻ががんで闘病している間に、夫が結婚証を偽造し、不倫相手と不妊治療をしていた。しかも偽造結婚証の使用に対する処分は行政拘留5日。中国の世論は朱さんに同情的だ。
凍結受精卵の法的位置づけ巡る議論
本件をきっかけに、凍結受精卵の法的扱いを巡る議論も活発化している。
中国メディアや複数の弁護士によると、中国の法律では凍結受精卵は「モノ」とも「人」とも異なる、特別な倫理的意味を持つ存在と位置づけられる。その処分を決める権利については、原則として精子と卵子を提供した当事者の意思を重視するという考え方だ。


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