その墨田区北部エリアでは1998年の向島国際デザインワークショップ以降、住民、アーティスト、建築家などが連携したアートと共にあるまちづくりが模索されており、2020年以降は年1回、10月に1カ月開催される「すみだ向島EXPO」が人を集めるようになっている。
その縁から京島界隈を中心にこの地域には「うちらの居間 分館(旧爬虫類館分館)」などのアート・コミュニティ拠点が点在、空き家をリノベーションして住み始めるアーティストやクリエイターも増えている。
今回、空き長屋を活用して民活化、それによって持続可能なアートのエコシステムを生み出す実験を始めるアーティストの北川貴好さんもその一人だ。
1974年に大阪府で生まれ、武蔵野美術大学建築学科を卒業した北川さんは2001年から墨田区に居住。既存のプレハブ家屋に無数の「穴」を開ける、空間の滞在体験を案内によって再構成する、部屋の窓から巨人が現れるなど、建築的アプローチで空間に介入して風景を再認識させる作品を制作してきた。建築空間のリノベーションや街を使ったワークショップなども行っている。
アートイベント「宿の家」
そうした作品のうちで今回のプロジェクトの契機になったのは2020年のすみだ向島EXPOで展示された「宿の家」。これは大正末期に建てられ、長らく空き家になっていた木造平屋を利用したアートイベントである。
展示の6年前に改修され、アトリエ兼住居として使われた後にさらに手が加わり、宿泊をメインにイベントなどに使用できるスペースとして使われていたのだが、それを北川さんが改修。宿泊する人が宿主である北川さんの指示に従って行動することで宿泊者自体がアートの一部となり、体験を享受、共有するというものだった。

