そうこうするうちに、最後の手術から5年経った。一般的には、手術後5年を経過すると、再発の可能性がグーンと減るらしい。このままフォローアップを一生受ける患者さんもいるし、5年でフォローアップを終える患者さんもいると主治医から言われた。
悩む。もう少し具体的なデータを見せてもらいたいという思いもあったが、先生からの説明はそれだけ。どうするか自分で決めなくてならない。
自分の体やクリニックのことを考えたら、本当は一生……そうでなくてもクリニックを運営している間はフォローアップを受け続けるべきかもしれない。
もう痛みを我慢する根性が残っていなかった…
だけどぼくは、あの尿道括約筋を越えるときの「ウッ」という痛みに辟易としていた。もう正直なところ、根性が残っていなかった。フォローアップをやめるのは、イチかバチかという半ば賭けのようなものであるが、神経をすり減らして生きていくのはイヤだと思った。
フォローアップを終了して、3年が経つ。ちょっと暗めの公衆トイレで自分の尿の色が少し赤っぽく見えると、今でもドキッとしたりするが、どうにか逃げ切ったのではないか。クリニックを運営する人間として、あれが正しい判断だったのか、それとも、将来ぼくのクリニックの第3の危機につながってしまうのか、はっきり言ってわからない。
これは私見だが、医者ってベテランになると患者の痛みに鈍感になるような気がする。ベテランの方々には、自分が研修医だった頃のビクビクしながら患者さんに接していたときのフレッシュな気持ちを思い出してほしい。膀胱がんを治してくれたことに対する感謝の気持ちは十分に持っているが、ぼくの精神の奥には痛みの記憶が今でも澱のように沈んでいる。
日本人の2人に1人ががんにかかる時代であるというのは、読者のみなさんも知っているだろう。これからの日本人は60歳を過ぎても雇用延長で働く人が大部分のはずだ。がんは高齢者の病気。みなさんの中にも働きながらがんの闘病をする人がいるかもしれない。
治療を受けるときは、ぜひ、たくさん情報を集めて、痛くない医療を受けてくださいね。

