ここで問われるのは、資源の帰属や軍事的趨勢だけではなく、回線の帰属の問題である。北極海航路、希少鉱物供給網、軍事監視網、データケーブルなど様々な重要回線が北極圏で交錯しており、これらが交錯する地点は「狭間化」する。
グリーンランドが直面しているのは、小規模な社会に巨額投資が流入する際のガバナンス能力、そして米国の安全保障の傘と欧州の制度圏の間で自治権をどう確保するかという課題である。
これは国の大小ではなく、回線の交差が主権を揺らす構図であり、筆者が典型的な「狭間国家」と捉える旧ソ連諸国の問題と同型であるといえる。
主権を守ることは、敵を排除することではない。使えるルートやツールが少ない国ほど、回線を増やし、その管理を自国で守り抜くことが、主権の維持につながるのである。
周辺国を縛るロシアの戦術
旧ソ連諸国は、大国ロシアとの付き合い方において、容易ではない事情を抱えている。ロシアは旧ソ連諸国や周辺国を影響圏に留めるために、いくつかの強力なツールを用いている。
まず、CIS(独立国家共同体)をハブとした二国間取引だ。ロシアは財政難の国には補助金の供与や債務の相殺、関税の優遇などの便宜を図り、経済的にひれ伏させる。また、平和維持などを名目に相手国に軍を駐留させ、安全保障の要衝を押さえる。
次に、エネルギーもロシアの重要な支配のツールだ。友好的な国には安く、非友好的な姿勢を見せる国には高く提供し、時には供給を止めることも辞さない。
債務が返済不能になると、相手国の重要インフラを差し押さえ、中国の「債務の罠」のようなことを行ってきた。ロシアの国営会社「ロスアトム」の原発も、一度導入すれば、技術者や燃料、使用済み核燃料の処理を含め、長期にわたって相手国に影響力を及ぼし続けることが可能となる二重のエネルギー支配の手段だ。
さらに、ロシアは情報や文化というソフトパワーも強く利用している。ロシア語圏やロシア系住民の多いところではロシア語のメディアが重要な役割を果たし、相手国のオリガルヒ(新興財閥)と組んで選挙に介入したり、SNSを通じた情報戦を仕掛けることもある。

