スイス人環境活動家ブルーノ・マンサー氏による訴えもあり、木材の最大輸出国のひとつであるサラワクは80年代頃から違法森林伐採や先住民土地奪取などの問題で国際的な注目を集めた。ムジャ氏は、森林伐採にせよ水力発電にせよ、いくら書面上での改善が見られていても、根底にある暴力と政治構造は変わらず続いていると指摘する。
「グリーン」アピールの裏にある人権侵害
「住民は『ブルドーザーがやってきて初めて工事のことを知る』という状況です。コミュニティは開発の意思決定に参加できず、決まった計画をあとから知らされるだけ。先住民の被害を意図的に隠蔽し、支援をせず、批判的な声を抑圧するという構造的な人権侵害があります。政府が変わらない限り、ダヤックにとって現地で起こることは何も変わらないでしょう」(ムジャ氏)
「グリーンであること」が付加価値となる現代のグローバル資本主義の中で、サラワクの「安くて豊富な」水力由来の電力を求めて、アメリカのIT大手企業などの外国企業や欧米の政府がやってくる。マレーシア政府は経済的利益のため投資を誘致し、外国企業や政府に「グリーンさ」をアピールする。
しかし現場で長年にわたり払われているコストは、ダヤックたちの伝統そのものだった。開発との共存があり得るとしたら、それはコミュニティが主体になることが前提だとポール氏は語る。
「開発そのものが悪いとは思っていません。でも開発をするのなら、そこに暮らしている人々が皆平等に便益を享受して、幸せに暮らせるようにする必要があります。先住民のコミュニティは自分たちの先祖伝来の土地で行われる開発に、自発的に参加しているわけではありません。だからこそ、便益の公正な配分(ベネフィット・シェアリング)が、開発の前提条件でなければならないと思います」(ポール氏)
サラワクで起こっていること、その構造は、日本の消費者にとって遠い話ではない。私たちが日々利用するクラウドサービスやAI、オンライン検索、動画配信といったデジタル社会は、その裏側で膨大な電力を必要としている。「グリーン電力」としての水力発電が再び注目を集めるサラワクで起こっていること、その構造は、日本の消費者にとって決して遠い話ではない。

