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それって、ホンマでっか?
フジテレビの「FOD」が今、好調な理由。 FOD事業執行責任者、野村氏に聞く

  • 制作:東洋経済企画広告制作チーム
テレビ局の動画配信ビジネスが今、本格化し始めている。日テレによるHuluの買収、ネットフリックスの上陸など新しいニュースには事欠かないが、国内勢でその動きが注目されるのが、フジテレビが展開する動画配信ビジネス、フジテレビオンデマンド(FOD)だ。フジテレビは、ここ最近視聴率の苦戦が報じられるが、デジタルビジネスでは大きく先行しつつある。なぜFODは成功したのか。その要因をFOD事業執行責任者である野村和生氏に聞いた。
野村 和生/フジテレビオンデマンド事業執行責任者、フジテレビジョン コンテンツ事業局副部長
1974年生まれ。97年中央大学法学部卒。同年NTT北海道移動通信網(現NTTドコモ)に入社。ワンセグの企画などを担当し、2005年フジテレビ入社。モバイルサイトプロデューサー、CSスポーツ編成、ゲームプロデューサーを経て、12年より現職。インターネットオリジナル番組「めちゃ×2ユルんでるッ!」のプロデューサーも務める

有料会員数80万人
民放最大手に成長

――フジテレビオンデマンド(FOD)の概要について教えてください。

野村 FODの特徴は動画配信、ライブ配信、電子書籍をワンプラットフォームで提供し、多様な料金体系を採用していることです。2005年にサービスをスタートさせましたが、12年以降、会員数は急激に伸び、現在のFODの有料会員数は80万人(15年10月現在)、月間利用者数は200万人(無料会員含む)に達し、売上げ規模は国内有数。黒字化も達成し、民放最大手となっています。

FODの陣容は約50人。20~30代の若手が中心で、編集室等の専用フロアも拡充しました。会員数の伸長に応じて、自社の番組だけにこだわらず、映画、アニメも配信し始め、現在ではコミック、雑誌も扱っています。もはやフジテレビのコンテンツだけにこだわらないということで、プラットフォームの呼称を「FOD」とすることにしました。「F」はFNS系列の「F」も表わしており、FNS系列としてのFODという意味も持たせたいと思っています。

この業界では、自社で運営しているサイトを「本店」、コンテンツを卸しているサイトを「支店」と呼んでいますが、各民放でカラーは分かれています。広くコンテンツを外に出していこうという「支店」中心の考え方がある一方で、フジテレビは今、「本店」に注力している本店主義と言えます。 

月額会員制の導入と
スマホ重視が成功要因

FODのトップページ

――その中で、なぜFODは黒字化を実現しているのでしょうか。

野村 「SVOD」(Subscription Video on Demand=定額制動画配信)、「TVOD」(Transactional Video On Demand=都度課金型動画配信)という言い方がありますが、FODではこれまでTVODを中心に展開してきました。ただ、TVODですと、そのときのコンテンツがヒットしているかどうかで、売上げが大きく上下するという問題がありました。

そこでFODは、2012年4月に定額制のTVOD、つまり月額会員制を導入することにしたのです。その結果、長期の収支予測を立てられるようになり、コンテンツ投資や販促も計画的にできるようになりました。

さらに、FODでは2012年4月からスマホ対応をしているのですが、それ以前からいち早くスマホに注目し、経営資源の殆どをスマホに投じたことが功を奏したと思っています。

というのも、テレビ局の人は、大画面信仰があり、画面に対する強いこだわりがあります。社内でも当初はなかなか理解を得られませんでした。でも、そこにこだわると、従来のテレビと何も変わらない。私たちは、観たいときにいつでも観られるスマホを重視することで、テレビ以外のユーザーにリーチすることを最優先してきたのです。

FODの現在のPC向けのUI(ユーザーインターフェイス)は、もともとタブレット用に最適化したものです。通常なら、PC向け、タブレット向け、スマホ向けと分けているのですが、FODはタブレットとスマホのUIしかなく、タブレット用をPCに適用しているのです。

――現在のPCとモバイルの割合ほか、モバイル時代に向けた取り組みはいかがですか。

野村 FODへのアクセスの7割はモバイル(スマホ6割、タブレット1割)になっています。したがって、UIの組み立ては、「スマホ、タブレットをどうするのか」というところから始まっています。実は、そこでは複数のサービスをワンプラットフォームでスピーディーに実現するために、アプリではなく、ウェブブラウザを中心に組み立てています。

FODではオリジナルコンテンツもいくつか制作しているのですが、そちらはスマホで観ることを前提に短尺ものを中心に展開していきたいと思っています。無料キャッチアップサービス「プラスセブン」のスマホ平均視聴時間は現在約30分。例えば、ユーチューブなら数分ですから、この時間の長さを表す意味は非常に大きい。つまりスマホで30分間、私たちのコンテンツで画面を占有できていることになるので、その広告価値は計り知れないものがあると思っています。

女性比率が高いFOD
独自の視聴属性の構築も

――FODの会員属性の特徴はいかがでしょうか。

野村 世代全体のバランスはよく、中心は20代、30代、40代の男女です。面白いのは、インターネット全般の属性と比較しても、女性の比率が高いことです。とくに電子書籍のコミックについては、その傾向がより鮮明に出ています。

そのため、コミックのトップページを意図的に女性向けの人気作品を多く並べています。さらにユーザー属性のアンケートをとることで、将来的には、そのデータをもとに広告の出し分けなどもやっていきたいと思っています。

さらに私たちは今、プラスセブンでは視聴率だけでなく全数調査も行っています。それはF1(20~34歳の女性)、M1(20~34歳の男性)といった属性だけではなく、新しい視聴属性の出し方の可能性を見出すためです。これはインターネットだからできることです。広告業界では「M1はどこにいるのか」とよく言われていますが、私たちは新しいデータプラットフォームも自社で構築していきたいと考えています。

――コンテンツのラインアップについて工夫はありますか。

野村 FODのコンテンツはフジテレビの番組にこだわらず調達しており、例えば、東映の『仁義なき戦い』なども配信しています。視聴属性として興味深いのは、地方の高齢者の方々がタブレットを多く利用していることです。実はタブレットの普及率は地方のほうが高いのです。そのため、その層を狙って時代劇の『鬼平犯科帳』なども有料会員特典として見放題で配信しています。さらにHuluさんから人気テレビドラマ『ウォーキング・デッド』を調達するなど、月額300円(税抜)から視聴できる日本一オトクなSVODを目指しています。

デジタルビジネスでも大事なのは
クリエイターのパッション

――テレビ局がデジタルビジネスを行なううえでの課題と強みとは何でしょうか。

野村 デジタルビジネスなら何でもいいというわけではなく、それぞれに強いデジタルビジネスがあり、それが私たちは動画だったということです。言うまでなくテレビ局は、アーカイヴも含めて、コンテンツを多数持っているうえ、24時間365日コンテンツを毎日つくり続けており、それが大きな財産と言えます。

その意味では、いくらデジタル時代が来たとはいえ、コンテンツをつくり出すクリエイターは、ひたすら良い作品をつくることに注力したほうがいい。そして、それをきちんとお金にしていくのが、プロデューサーであり、私たちのようなビジネス部門なのです。

デジタルビジネスのために、あまりにもターゲットを意識し過ぎては良いコンテンツはできません。クリエイターに重要なのはパッションです。彼らが本当につくりたいものをつくらせることが、テレビ局で最も大事な部分だと思っています。

――情報番組やドラマをデジタルでどのように活かしていくのでしょうか。

野村 コンテンツには大きく分けて、フローコンテンツとストックコンテンツがあります。フローコンテンツはニュースやスポーツ、情報番組であり、ストックコンテンツはドラマや映画となりますが、このストックコンテンツをいかに大量にラインナップできるかが重要になってきます。一方でフローコンテンツは、よりテレビ寄りの戦略となりますが、基本的には動画配信もフローとストックのバランスが重要だと考えています。

電子書籍は15万冊規模
スタート2カ月で黒字化

――独自性に電子書籍(コミック、マガジン)を拡充する理由とは?

野村 今のベストセラー書籍はアニメ化・ドラマ化されたことでさらにヒットしています。『進撃の巨人』『半沢直樹』しかりです。しかし、これをテレビ局として考えると、視聴率がすべてであって、それ以外、何のメリットもありません。

そのため、約2年の準備期間を経て15年2月に電子書籍に進出しました。ただ、電子書籍市場は既に完全なレッドオーシャン(競争の激しい既存市場)です。私たちもこれまでフジテレビBOOKSをやっていたのですが、鳴かず飛ばずの状態でした。そこで、これをFODの中で再構築することで、有料会員80万人に利用してもらうことにしたのです。

重要なことは、今、動画はレンタルが中心だということです。それが意味するところは、単価が安いということです。例えば、1時間番組ドラマ1本、1週間300円という売り方をしていますが、電子コミックはレンタルではなく購入が中心であり、1冊あたり400~500円が中心です。私の消費感覚だと15分あれば1冊読めます。つまり、1時間300円のドラマと15分400~500円のコミックでは、コミックのほうが、時間単価が高いわけです。

私たちは今スマホに注力していますが、SNSやゲームなどと画面の取り合いをしています。その中で、限られた時間を使って利益を上げるために電子書籍をやっている側面が大きい。そして、それは何より有料会員の解約防止にもつながります。会員が解約する理由は、「もう見るものがないから」。ならば、見るものを増やせばいい。その意味でも、電子書籍はすでに15万冊の規模にあり、サービススタート2カ月で黒字化を実現しています。

――地上波放送との連動、ソーシャルとの連携についてはいかがでしょう。

野村 今、FODがやっていることは、地上波のリアルタイム視聴の促進という面もあります。これまでそうしたキャッチアップを中心にやってきましたが、これからは試写会的な役割も持たせていきたいと考えています。
FODにおけるソーシャルを活用した試みについては、いろいろやってみたいと思っていますが、例えば、オリジナル作品などをクラウドファンディングで制作することもアイデアの一つです。

動画配信は成長と淘汰の時代へ
早期に有料会員100万人を目指す

――ネットフリックスやHuluなどSVODサービスは敵、または味方でしょうか。

野村 今は、まだ市場が伸びていく段階なので、普及のほうが優先されます。その意味では、ネットフリックスさんやHuluさんには、すでに番組を一部提供しており、パートナーだと思っています。コンテンツ的な競合もほとんど発生していません。むろんネットフリックスさんとHuluさんは競合している部分もありますが、FODはそれぞれのパートナーとして、それらと合わせて契約できるような月額300円(税抜)から始められる配信サービスということに主眼を置いています。

――将来の市場予測と今後の目標について教えてください。

野村 動画配信の市場規模は現在約1500億円と言われており、2020年には2000億円規模になると言われています。ただ、業界全体としては伸びていくのですが、すでにプラットフォームの淘汰は始まっており、サッカーのワールドカップで言えば、グループリーグはすでに終盤で決勝トーナメントに進めるチームが決まり始めている状況にあります。私たちも今、決勝トーナメントに出場できるよう必死に戦っている状況です。

そのためにも、早期に有料会員数100万人を実現し、ドラマ×コミック、動画×コミックといった企画をメディアミックスでさらに進めていきたいと考えています。今後は、FNSのオンデマンドという意味でも、系列ほか幅広いコンテンツも配信していきたい。オリジナルコンテンツについても、短尺のみならず、連続ドラマやアニメも制作していきたい。FODの良さはフットワークが良いことです。これからも、どんどん新しいことに挑戦していきたいと思っています。