背景には、教室に単一の価値観(例えば、みんな同じ条件の中でより多くの努力をして、よい結果を出すのが善であるというような)が存在しないという構造的な変化がある。教室では、子ども一人ひとりの違いに応じた実質的公平(substantive equity)が求められている。
そのカギになるのが「エージェンシー」、つまり自分に合った学び方を選び、主体的にゴールへ向かう力だ。教師が一方的に教え、学習環境をすべて整える従来型の授業では、多様性が前提となるこれからの教室を支えきれない。
例えば、算数の時間。これまでは、教師が子どもを見ながら「Aさんには線分図」「Bさんには具体物」「Cさんにはイラスト」「Dさんには読み上げ」と、35人いれば35通りの支援を「用意してあげる」必要があった。理想ではあるが、現実には教師の負担が大きく、持続可能とは言いがたい。
しかし、最近の教室では少し違う光景が見られる。授業の冒頭、教師が「今日は自分に合ったやり方で解いてみよう」と声をかけると、子どもたちは自然と動き出す。
ある子はタブレットで問題文を読み上げさせ、別の子は線分図テンプレートを呼び出す。具体物を使いたい子は自分で棚からブロックを取り出し、イラストで整理したい子はホワイトボードを手に取る。必要な支援が見当たらない子は、教師のところへ来て「こういうやり方でもいい?」と相談してくる。
教師はすべてを「与える」のではなく、子どもが自分で選び、工夫し、必要に応じて助けを求められる環境を整える役割に変わっていく。こうした学びが積み重なると、子どもたちは自分の学びやすさを自分でつくり出せるようになり、教師の負担はむしろ軽くなる。
そして、この変化を後押ししているのが、1人1台端末の存在だ。読み上げ、拡大、図のテンプレート、動画解説、音声入力──子どもが自分に合った学び方を選ぶための「選択肢」が、端末によって一気に広がった。
多様性が当たり前となるこれからの教室では、こうした環境こそが、子どもたちのエージェンシーを育てる土台になっていく。ここで重要なのは、個別支援は特定の子にだけ提供される「特別扱い」ではなく、学びへの参加を全員に保障するための環境調整であるという視点だ。
アメリカのCASTが提唱したUDL(学びのユニバーサルデザイン: Universal Design for Learning)の考え方が注目されるのも、まさに「最初から多様性を前提に授業を設計する」必要性が高まっているからだ。
現場で進む実践“個別最適化”はこうして行われている
学校現場では、すでに多くの工夫が始まっている。ここでは、実際の教室で見られる3つの変化を紹介したい。

