ある4年生の国語の文章読解に関する授業。担任は「読み方は次の4つから選んでいいよ」と伝える。
• 音読アプリで読み上げを聞く
• タブレットで拡大表示しながら読む
• だれかと一緒に読む
• 紙の教科書で読む
それ以外の授業でも、次のような学びの選択肢が用意されている。読み書きに困難のある子は、読み上げ機能を使うことで内容理解が進む。板書が苦手な子は、黒板を写真で撮り、後でゆっくり整理する。文章を書くことが苦手な子は、音声入力で意見を提出する。 口頭での発表が苦手な子はテキスト入力したものを学級のみんなに見せる。こうした選択肢の拡大は、特定の子だけでなく、クラス全体の学びの質を底上げしている。
実際、ある学校では、音声入力やテキストでの意見提出を導入したところ、これまで発言が少なかった子どもたちの意見量が大幅に増えたという。ICTは「苦手を補う道具」ではなく、「学び方を広げる道具」としても機能し始めている。
ある1年生の教室では、朝の会の前に「今日の見通しカード」を全員が確認する。
• 今日は図工がある
• 4時間目は避難訓練
• 給食はカレー
• 5時間目は体育館でよさこいの練習
見通しが持てることで、不安が強い子が落ち着いて過ごせるようになる。 先が見通せるということは、自分がどう行動すべきなのかを考えるエージェンシーを育てることでもある。また、トラブルが起きやすい場面では、事前に「選択肢」を提示する。
「休み時間は、図書室・校庭・教室のどこで過ごす?」「友達とけんかになりそうになったら、保健室で落ち着く?・先生に相談しに行く?・友だちに聞いてもらう?」 というような選択肢があることで、子どもは自分で行動をコントロールしやすくなる。行動支援は「問題が起きてから対応する」から、「問題が起きにくい環境をつくる」へと確実にシフトしている。
多様なニーズを持つ子どもたちへの支援を担任1人で抱え込むのではなく、特別支援コーディネーター、スクールカウンセラー、外部専門家、保護者が連携するケースが今の学校ではスタンダードになっている。
ある学校では、週1回程度の「支援ミーティング」で、子ども自身が困難を強く感じている子の様子を共有し、支援の方向性をチームで確認している。また保護者との協働も欠かせない。
家庭での様子や困難を感じている事柄を共有し、学校と家庭で支援の方向性を統一することで、子どもが安心して過ごせるための基盤づくりをしている。学校と家庭は「対立関係」ではなく「子どものために協働するチーム」であるべきだ。そのために保護者も参画して多様性や子どもの発達理解に関する「学習会」の開催をしている学校もある。これには高い効果があると考えられる。
これからの学校に必要な視点「個別支援は当たり前」へ
個別支援は、特定の子どものためだけのものではない。むしろ、すべての子どもが「自分に合った学び方」を選べる学校こそ、これからのスタンダードになる。そのために必要なのは、次の3つだ。
発達特性の理解、行動支援、UDL、ICT活用(教師が使用場面や頻度をコントロールするのではなく、子どもが必要な時に選択できる環境が重要)など、教員が学び続ける仕組みが不可欠だ。 特に、行動の背景を理解する「機能分析(その行動が子どもにとってどんな意味や役割を果たしているのかを読み解く方法)」や、予防的支援(問題が起きてからの支援ではなく、事前に支援して失敗を避ける)の設計は、現場で必須である。
現場での個別支援は、どんなに十分に話し合いを重ね、論理的に結論を出したとしても、うまくいくことばかりではない。支援する側もされる側も多様さをもった人間なのである。だからこそ、担任任せにせず、学校全体で支援を設計し、互いにエンパワメントする「チーム学校」の発想が求められる。 支援ミーティングの定例化、校内委員会の機能強化、外部専門家との連携など、組織的な支援が不可欠だ。
ただし、その際に気を付けなければならないのは、あくまで互いのエンパワメントの場であるということを忘れないことである。会議が単に責任の所在を追及する場であったり、子どもや家庭の課題をあげつらったりするだけの場になってはいけない。全員が謙虚さと敬意をもった態度で対話し続けることが大切だ。
学校だけで多様性を支えることはできない。地域、医療、福祉、企業など、社会全体で子どもを支える仕組みが必要だ。 多様なニーズを持つ子どもたちは、学校の「負担」ではなく、社会の変化を先取りして教えてくれる存在でもある。その意味において、学校の今を真正面から見つめ、変革していくことは、やがて社会を改善していく力になるのだ。
今、目の前にいる子どもたちに学校を合わせることが、より多くの人が過ごしやすい社会をつくるための起点になる。学校は誰かと競い、優劣を決め、個人の利益だけを追求する場であってはならない。多様な他者がいることを当たり前の前提として、互いの利益がぶつかり合ったときに、どのように対話し、どのように解決していくのかを体現していく場でなければならない。
個別支援の充実は、子どもたちの可能性を広げるだけでなく、学校そのものをより柔軟で包摂的な場へと変えていく。 これからの教育は、「一斉」から「多様」へと確実にシフトしていく。その変化をどう受け止め、どう形にしていくかが、学校の、いや社会の未来を左右する。



