彼が席に戻ってくる足音が聞こえると、オフィスの空気は張り詰め、部下たちは「今日は機嫌がいいだろうか」「地雷を踏まないようにしよう」と身を縮める。
あるいは、卓越した技術を持つエンジニアのB氏。
彼が書くプログラムのコードは美しく、複雑なシステムトラブルも瞬く間に解決してみせる。技術的な知識量はずば抜けており、誰も彼には敵わない。「技術の守護神」との呼び声も高い。
だが、彼はチームワークを軽視している。コードレビュー(書いたコードを互いにチェックする場)では、他人のコードを「センスがない」と笑いながらこき下ろす。彼の基準に満たない人を無能と見なし、質問に来た後輩を「そんなこともわからないのか」と冷たく突き放す。いずれも一切の悪気はない。
結果、若手エンジニアは萎縮し、誰も彼に話しかけなくなった。必要な情報共有が滞り、チームは機能不全に陥っている。
エースの仮面を被った破壊者
彼らは確かに“仕事ができる”。会社に利益をもたらし、難題を解決する。その意味で、彼らは間違いなく「優秀」(ブリリアント)だ。しかし同時に、組織の協調性を無視して周囲の人々を疲弊させ、メンタル不調者や離職者を生み出す元凶ともなっている。チームプレイヤーとしては、「嫌な人」(ジャーク)なのである。
「仕事はできるが、一緒に働きたくない」
「あの人さえいなければ、もっといいチームになるのに」
「なぜ会社は、あんな人を野放しにしているのだろう」
そんな嘆きの声が、今日もどこかのオフィスから聞こえる。もしかしたらあなた自身も、そんな誰かの顔を思い浮かべながら、この文章を読んでいるかもしれない。
この、“優秀だが有害”な人々のことを、シリコンバレーなどのビジネスの最前線では「ブリリアント・ジャーク」(Brilliant Jerk)と呼ぶ。直訳すれば「才能ある嫌な人」あるいは「有能なろくでなし」といったところか。

