食事・運動療法には限界があり、このことは繰り返し臨床試験で示されている。
2019年4月にアメリカ内科学科誌に発表されたアメリカの多施設共同研究によれば、食事・運動指導を強化しても、15年間にわたって体重減少を維持できたのは、わずか5.9%にすぎなかった。つまり95%は食事や運動療法では減量を維持できず、リバウンドをしてしまうのだ。
厚労省が肥満治療を必要とする人全員に食事・運動療法を義務付けることに合理性はない。彼らの仕事は、肥満症に悩む患者を一律に規制することでなく、彼らの減量をサポートすることだ。医師と患者が相談して、ケースバイケースで決めればいい。
美容と医療を混同する報道
もう1つの日本でのGLP-1薬をめぐる大きな問題は、議論が「ダイエットにおける美容医療・転売」と「肥満治療」が混同されて報じられている点である。これはマスコミの責任が大きい。
ときわ会常磐病院の金田侑大医師が全国紙5紙を対象とした分析調査によると、2023年4月~2026年6月に配信されていたGLP-1薬関連記事は57本。その内容をGLP-1薬に対して好意的・中立・批判的の3つに分類したところ、61.4%が批判的な記事だった。特に2026年6月以降の記事は、すべて批判的だった。
一連の報道では、美容(ダイエット)目的の乱用や薬の転売、不適切処方が中心で、それに加えて膵炎や胆嚢炎などの副作用が取り上げられていた。
こうした報道に押されたのだろうか、厚労省は6月16日にGLP-1薬の適正使用に関する通知を発出した。通知の内容は美容・ダイエット目的の適応外処方だったが、報道ではその区別が十分になされず、あたかもGLP-1薬そのものに問題があるかのような報じ方をしていた。
その結果、肥満や糖尿病の患者にとって有益な治療までが疑念の目で見られる状況を招いている。
GLP-1薬は、その作用機序から便秘などの消化器症状は高頻度に起こるが、それ以外の副作用リスクは低い。マスコミがしばしば取り上げる膵炎の場合、近年の大規模メタ解析やランダム化比較試験の統合解析では有意な増加は確認されていない。
例えば2023年に公表された43試験、約9万人を対象としたメタ解析では、膵炎リスクはプラセボやほかの治療群と差がなかった。相対危険度は 1.24(約1.24倍のリスク)で、統計的に有意な差はなかった。

