具体的には、同年代の知人で「どうにも気に食わないな」とか「絶対気が合わないな」と感じる人を思い浮かべると、あなたの影の形がわかるかもしれません。自分とはまったく異なる生き方をしている人とは、自分が捨ててきた可能性を具現化している人であり、そういう人にあなたの影を投影しやすいということです。
ミドル・エイジ・クライシスの正体とは
人生の前半は仮面を作って、影を見ないようにする。しかし、正午になるとこれが逆流し始めます。影が人生の表舞台に乗り込んできて、今まで生きてこなかった自分をちゃんと生きるべきだと主張し始めます。これがミドル・エイジ・クライシスの正体だとユングは考えます。
たとえば、中年になって、体の病気が見つかったり、家族に問題が起きたり、仕事が変わったりします。すると、今までとは生き方を変えなければいけなくなります。働くことに全力を挙げてきた人は愛することを開拓せざるを得なくなり、個人的に生きてきた人が組織のために自分をささげることに取り組まざるを得なくなります。今までの自分とは正反対の自分や今までは忌避してきた生き方を取り入れるべく格闘することになる。
大変なことです。強みを生かすことは楽しくても、弱みと向き合うのはしんどい。それでも、そのようにして影だった自分を開拓し、生き方に取り入れていくことは人生を豊かにしてくれると、ユングは考えます。「なりたい自分になる」のではなく、「なりたくなかった自分も含めて引き受ける」のが、ユング的な「自己実現」です。
暗いものに直面することで豊かになる。「影を生きる物語」のこの逆説を、ユング派分析家である河合隼雄は次のように記しています。
人生の前半に価値をもたなかったものが、後半には価値をもってくる。春の喜びや夏の暑さだけで人生はできていなくて、秋の悲しさと冬の寒さにもまた人生の価値がある。「影を生きる物語」はまさに夕暮れの心理学です。心は光だけではなく、闇も十分に生きることを求めているということです。


