こわいのは、こうした症状が改善と悪化を繰り返しつつ、長年の間にじわじわと悪くなっていくところだ。薬や医療機器などの進化で、以前よりも心不全の治療は進歩しているものの、いまだ完治は望めない。「一度弱った心臓は元には戻らず、命をも縮めることにもなりかねない」(五十嵐さん)という。
実際、心不全で入院した患者のうち、5年後に存命している人の割合は半数程度。がんの治療に関してよく聞く「5年生存率」が、心不全では約50%というわけだ。
全身に血液を送るポンプの不調
心臓は24時間365日、休みなく全身に血液を送り続けているポンプのような臓器だ。その数は1日に約10万回。心不全では、この機能が何らかの原因で弱った結果、血液を十分に送り出すことができず、また血液が戻って来られず、前述の症状が現れる。
五十嵐さんによると、心不全の直接的な原因で最も多いのは、心臓の筋肉(心筋)に酸素や栄養を届ける冠動脈が詰まって、血液が流れなくなる心筋梗塞で、このほか、心臓にある血液の逆流を防止する弁の異常(弁膜症)や高血圧なども原因になるという。
こうした原因は、ある日突然起きるのではなく、その芽は40代、50代のうちに育ってくる。例えば、高血圧。診察室で測定した最高血圧が140mmHg以上の場合などに診断されるが、「180mmHg以上のような“とんでもない値”を何年も放置していると、心臓も弱ってくる」(五十嵐さん)という。
そして芽の前の「種」ともいえるのが、危険因子と呼ばれる病気や状態で、後述する糖尿病などの生活習慣病や、肥満などがある。高血圧は心不全の「直接の原因」であるとともに、慢性腎臓病や不整脈など他の病気を発症、悪化させて心不全発症に関わる「危険因子」でもある。
意外にも、寝ている間に断続的に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群も危険因子だ。「一般的に肥満の人のイメージがありますが、やせている人で顎が小さい人、抜歯や歯列矯正をした人にも見られます」(五十嵐さん)。呼吸が止まって血液中の酸素が不足するなどすると、心臓はさらに働かなければならなくなり、負担が増す。
高血圧・糖尿病・脂質異常症・慢性腎臓病・睡眠時無呼吸症候群・加齢・肥満・不整脈・喫煙(過去の喫煙や受動喫煙を含む)・多量飲酒

