「これは猪木さん疲れてるなっていう時も、わりとしょっちゅうありました。人に囲まれて楽しそうに飲んでいても、パッて見たら寝てしまっていたり。人といると賑やかにやってるんですけど、1人になったら寝込んじゃうみたいな。
それだけ忙しいし、すごくパワーを使う人だった。だから自分も、猪木さんと何日か一緒にいるだけでものすごく疲れました。朝から人と会い続けて、夜は会食があって、もう寝る時間もろくにないということも何度もありました。
それでも、以前は体のケアのための時間を取っていました。マッサージとか、闘魂棒でストレッチしたりね。でもそういう時間がだんだんなくなっていったんです」
「アントニオ猪木」じゃなくていい時間
サイモンだから接することができた、リラックスした素の猪木の姿もあった。それは日本ではなく、アメリカで会った時の姿だった。
「何でもない時っていうんですかね、要するに"アントニオ猪木"じゃなくていい時間。そういう時がいちばん楽しそうでしたね。周りの目を気にしないで、気をつかわないで、本名の猪木寛至でいられる時が、印象に残ってます。
やっぱり日本にいる時は、アントニオ猪木として振る舞わないといけない。でもアメリカで会う時とか、日本でもたまに事務所で2人きりになった時とかは、素が出てました。
優しい人だったし、むしろ人に気を遣うタイプでした。寛子の様子を聞いてきたり、うちの子供のことを聞いてきたりする時なんかは、まさに"おじいちゃん"になってました。顔つきからして違いましたね」
アントニオ猪木は24時間、常にアントニオ猪木を演じていたと言われる。しかし、サイモンにとってはそうではなかった。
時に稀代のカリスマであり、上司であり、同時に妻の父親でもあり子供のおじいちゃんでもあった。そこにはファンが見ることのできない"猪木寛至"がいたのだ。
(取材・文/橋本宗洋)


