一方で、地元民の日常に目を向けてみると、思いのほか「南国感」は薄い。そのひとつの理由として、南国らしい雰囲気のある沿岸部は一部のエリアであり、多くが山地で占められているという地理的な面が挙げられる。南国というイメージの裏側で、実に県土の76%を山地・森林が占める「山岳県」であり、県北から県央西部にかけては九州山地、県南西部に霧島連山、県南部に鰐塚山地がそびえる。
また、広大な日向灘に面していることから水産業もさかんではあるものの、それを大きく上回るのが「南国」のイメージからやや距離のある畜産業である。宮崎牛をはじめとする肉用牛や豚、鶏の生産は国内トップクラスであり、海やフェニックス並木より、山々や畜産舎の方が身近な風景だと感じている地元民は少なくない。筆者もその一人である。中でも、養鶏は全国トップクラスの規模を誇り、鳥刺しやチキン南蛮、鶏の炭火焼きなど宮崎の名物料理として県外の方が思い浮かべる料理は、我々地元民も日常的に食べている。
それに加えて、冬は結構寒い。宮崎市や日南市などの平野部こそ比較的温暖だが、山間部には当然のように霜が降り、積雪が観測される地域もある。南国の常夏感を期待すると、見事に裏切られることになるのだ。県北部の五ヶ瀬町には、国内最南端のスキー場「五ヶ瀬ハイランドスキー場」もあり、「南国」のイメージからは遠く離れている。
「沖縄」という圧倒的南国の出現
そして、何よりも沖縄という存在は大きい。宮崎が新婚旅行ブームで沸き立っていた当時、沖縄は現在のように気軽に訪れることができる場所ではなかったため、宮崎は「南国」としてのポジションをほしいままにできた。しかし、沖縄が本土復帰を果たし、さらには国内航空網が急速に発達していくと、沖縄は新婚旅行先としてはもちろん、一般的な旅行先としても人気を博していくようになる。
そうなると、「南国」というイメージにおいて、宮崎は沖縄に太刀打ちすることは難しくなった。沖縄においては、サンゴ礁やガジュマル、ハイビスカス、さらには赤瓦屋根の民家や石垣など、生活空間そのものが「南国」を形作っている。つまり、沖縄の「南国感」とは独自の文化や亜熱帯の自然に支えられたものであり、一方で、宮崎の「南国感」は、本土の人々が憧れた南国リゾート像を観光開発によって形にしたものだった。いわば、宮崎は「本土の延長線上の南国」であり、沖縄は「異文化としての南国」。宮崎の人々が「南国」を名乗ることに対して複雑な思いを抱えるようになるのも無理はないだろう。

