東洋経済オンラインとは
政治・経済・投資 #欧州経済ウォッチ

「円高」こそ経済安全保障に適うのではないかという素朴な疑問…高市政権はなぜ供給網の強靭化だけを謳うのか

6分で読める
高市政権の経済安全保障に「強い通貨」という目的がないのはなぜだろうか(写真:ブルームバーグ)
  • 土田 陽介 三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員
2/2 PAGES

他方で、日本と同様にエネルギーの純輸入国であるヨーロッパ各国では、ユーロ高を容認する機運が高まっているように見受けられる。ロシアや中国とのみならず、アメリカとも対立を深めるヨーロッパでは、日本以上に経済安全保障の重要性が叫ばれている。そのためヨーロッパは、購買力を高める観点からユーロ高を容認しているようだ。

2025年にアメリカでドナルド・トランプ大統領が再登板して以降、その荒唐無稽な経済運営が嫌気され、ドルは世界的に値を切り下げている。いわゆる「ドル不安」だが、その大きな受け皿となった通貨がユーロだ。そのため同年のユーロは歴史的な上昇の大相場となったが、トランプ関税の影響も加わって、ユーロ高による輸出への悪影響も懸念された。

今年2月のイラン戦争による「有事のドル買い」でユーロ高は一服した。しかし、そのような中でも再度のユーロ高を警戒するようなムードは薄れている。油価高騰の折に資源を買い負けないためにも、また国際社会で政治的な影響力を行使するうえでも、ユーロ高は望ましい。そうしたムードが醸成されているからこそ、ヨーロッパではユーロ高を容認しているのだろう。

ユーロ高はヨーロッパ製品の価格競争力の低下につながるが、当面の間は致し方がないと考えているのかもしれない。モノ(最終財)を作るためのモノ(原材料や中間財)がないのだから、まずはモノを作るためのモノをどう有利に調達するかを優先せざるをえない。供給網の強靭化と通貨高は、経済安全保障の両輪だという認識だろう。

ヨーロッパ経済に釘を刺しておくとすれば、それは当局が経済の統制強化を組み合わせていることの問題だ。計画経済的な経済運営観を復活させているわけだが、これだと中長期的には国際競争力の低下を招く事態になりかねない。経済安全保障の面でユーロが強いことには大きな意味があるが、出方を間違えると、経済の高コスト化に拍車をかけることになる。

それでも日本は円高を目指さないのか?

モノを作るためのモノが手に入りにくくなったとき、要するに原材料や資源の価格が高騰したときは、経済の体質改善の好機である。節約が進むため、要素投入量当たりの付加価値産出量が向上するからだ。つまりは生産性の向上であるが、これを2度の石油ショックで体現したのが、その実、わが国日本の製造業であることは歴史の事実である。

とはいえ、そうした体質改善は短期的には強い痛みを伴うから、何らかの緩衝材が必要となる。その意味で、円高を通じた交易条件の改善を目指すことには大きな意味がある。にもかかわらず、政府が円高を目指そうとしないのは、円高のためには財政と金融の両面で引き締めが必要となり、景気がある程度、圧迫されるからにほかならない。

しかし、グローバル化が後退し、供給網を取り巻く不確実性が高まったこの時代において、それでも円安の是正に及び腰であり続けることは、将来に必ず禍根を残すことになる。経済安全保障を重視するのであるならば、目指すべきは円高であることを政府はきちんと認識すべきだろう。安い通貨で原材料を買うことはできないのである。

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

政治・経済・投資

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象