笑いは一切ありません。ですからお客様が本当に楽しんでくれたかどうかは分かりません。しかし《笑いの世界》では、笑い顔や笑い声で、お客様が楽しんでいることが演者にストレートに伝わります。
そんな私の一人芝居の作品がちょうど十本目になり、そのキャリアが約二十年を過ぎた時、私は初めてふと立ち止まり、「自分の舞台を観に来てくださった方々は、終演後に会えば『良かった』と言ってくれるけれど、本当に楽しんでくれたのだろうか?」と考えるようになりました。
私は小さな頃から人を笑わせるのが大好きで、小・中・高校と常に学校で寸劇や先生のモノマネなどをする生徒でした。その<笑い>という原点にもう一度戻ろうと決意し、ある日ネットで情報を調べていた際、あの吉本興業のお笑いの養成所である「吉本総合芸能学院(吉本興業の養成所(NSC))」の募集要項を見つけたのです。直感的に私は「これだ!」と思いました。
しかし吉本興業といえば、お笑い界の東大のような存在です。この年齢で、到底私が入れるとは思えませんでした。なぜなら芸能界で「事務所」に入ることの難しさを、私は身に染みて知っていたからです。そして、もしもこの養成所に入れたとしても、周りの年齢はきっと自分の半分ほどの若者たちでしょう。色々大変な思いをすることは目に見えています。私はすぐに「無い無い!」と、その受験する気持ちをかき消しました。
でもあの吉本で、本当の笑いを勉強できるなら……。そんな期待と不安が入り混じる葛藤の中、募集締め切りまでの時間はどんどん過ぎていきました。
恐怖心で、決心できない…それでも吉本の門を叩いた訳
吉本興業の養成所募集の締め切りが数日後に迫りながらも、私はその決断が出来ずにいました。怖かったのです。
応募条件は「十八歳以上」とだけ。当然応募者はみんな二十代前後の若者たちでしょう。そこへ彼らのお母さんほどの年齢の私が行って、嫌な思いをするのは目に見えていました。しかし一方で、その未知の世界に惹かれている自分もいたのです。
