しかし、作業はそれで終わりではなかった。Kはマニュアルの次の項目『サプライチェーン展開(オプション)』に目を落とした。佐藤のメール履歴から、最も頻繁にやり取りしているドメイン『帝国自動車』を見つけ出す。
「大物だな。これでボーナス査定が上がる」
Kは、佐藤が先週送ったメールに『Re:』を付け、ウイルス付きのファイルを添付して送信をした。件名は『Re:先日の請求書の修正の件につきまして』。文面は定型文のコピペだ。
所要時間はわずか3分。これで日本の自動車工場のラインを止める準備が整った。
「よし、これで今週のノルマ達成まであと少しだ」
Kは、佐藤の人生を破壊する準備を終えると、さっさとパソコンをスリープさせた。彼には、娘と遊ぶ約束があったからだ。
月曜日の朝の悲劇
月曜日の朝。佐藤が出社し、「今週も頑張ろう」とパソコンの電源を入れた午前9時。コーヒーを一口飲んだところで、世界が一変した。デスクトップの壁紙が、毒々しい赤色に変わったのだ。
アイコンはすべてドクロマークに変わり、ファイル名は意味不明な文字列に書き換えられていく。『YOURFILESAREENCRYPTED(ファイルは暗号化された)』『復元したければ72時間以内に以下のビットコインアドレスへ送金せよ』
「な、なんだこれ……?」
マウスをクリックしても反応がない。周りを見渡すと、部下たちが一斉に悲鳴を上げていた。
「課長!パソコンが動きません!」
「共有フォルダが開けません!」
情報システム部が駆け回り、怒号が飛び交う。
「バックアップは!?」
「ダメです、昨夜のうちにすべて破壊されています!」
しかし、本当の地獄は社外からやってきた。月曜日、午後2時。自分のパソコンが真っ赤な警告画面に染まったまま、佐藤はデスクで途方に暮れていた。
